[とくダネ!ナオキ 第35話]ユーザーはどうすればいいの?
テレビを見ていたらNITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)のCMが目に飛び込んできました。最近ハンディファン(携帯用扇風機)の発火事故が増えているので、注意を促す公報CMのようです。使用中に爆発することもあるということです。
動画はYouTubeにも掲載されています。
この猛暑でもよく見かけましたが、特に若い女性が手にしている小型扇風機ですね。これの爆発事故が多いのですか!?
ユーザーが普通に使っているだけで爆発するのであれば欠陥商品ですしリコール必至です。しかし、そうではありません。
このハンディファンの事故に関してはユーザーの誤使用が原因なのです。
ハンディファンは移動中片手に持って使うので、スマートフォンと同様に落としやすいアイテムです。その落下の衝撃によりリチウムイオンバッテリーが損傷し、爆発事故に至ることが多いようです。
落下してバッテリーが損傷していることに気がつかなかったということですか? NITEの動画を見ると、発火や爆発するまでに時間を要していると思います。その辺りは取扱説明書にどのように記載されているのでしょう?
そうですね。取扱説明書には取り扱いの注意が書いてあるはずですよね。それをユーザーが守らないというケースが多いのではないかと考えました。そこで、ハンディファンのトリセツのリチウムイオン充電池に関する安全表記を調べてみました。
A社:
警告
異常・故障時には、直ちに使用を中止する
そのまま使用すると、発煙・発火・感電・けがのおそれがあります。
<異常・故障例>
・コゲくさい臭いがする。
※このような症状のときはすぐに電源を切ってUSBケーブルを抜き、お買い上げの販売店へ点検、修理を依頼してください。
本体に衝撃を与えない
破裂・発熱・発火・液もれ・故障のおそれがあります。
リチウムイオン充電池の取扱について
危険
落として衝撃を与えたり、傷付けたりしない
液もれ・発火・ショート・発熱・破裂の恐れがあります。
異常・故障時の例には、本体を落としたときの症状に該当しそうなものは見つかりません。
「本体に衝撃を与えない」と書かれていても、落としたことで本体に衝撃を与えたことになるとは思わないユーザーもかなり多いと思います。
したがって、ユーザーは警告文を読んだとしても落とした後で使用は中止しないかもしれませんね。
スマホを落としても使い続けるユーザーをかなり目にしていますから、このようなユーザー行動は容易に予見できます。
確かに製品が目に見えて損傷していないのであれば、故障したとは思わないかもしれませんね。落としても通電するのであればなおさらです。
それでは、もしユーザーが本体に衝撃を与えたことを認識したとして、ユーザーはどうすれば良いのでしょうか?それが書かれていません。
この記載であれば破損・液漏れ・故障(ショート)した場合はそれを認識できますから、そうでない場合、バッテリーが発熱・発火して初めて故障を認知できる、ということになりますね。
そうなりますよね。「リチウムイオン充電池の取扱について」が最後に記載されているのは電池工業会の推奨に従っていると思われます。しかし、「危険」レベルの注意なのに、安全表記の最後に記載されています。これも大きな誤りです。
別の製品はこうです。
B社:
警告
故障や破損した状態で使わない
けがや火災、感電などの原因になります。
注意
落とすなどして衝撃を与えない
断線や変形、破損により使用できなくなる可能性があります。
こちらも同様ですね。外見の破損については誰でも見ればわかりますが、故障については疑問が残ります。スイッチ入れて動かなければユーザーは故障だと判断しますが、落とした後でスイッチを入れて動いた場合故障だとは思いません。ところが電池内部が落とした衝撃で破損している場合、当初動きはするが、そのうちに爆発するかもしれない。
この文章ではユーザーはそれを予測できません。「注意」に書かれているのは使用できなくなる可能性だけなのです。
C社:
危険
強い衝撃を与えたり、圧力を加えない
発熱・破裂・火災の原因になります。
警告
異臭、異常、故障、破損があったり、異常に熱くなるときは、直ちに使用を中止する
●ショート・感電・火災の原因になります。
※お買い上げの販売店に点検・修理をご相談ください。
この「危険」の表記では、B社の安全表記と同様落としたことは意図したことではないので、ユーザーは強い衝撃を与えたとは考えないかもしれません。さらに「警告」では爆発する可能性を伝えていません。
「警告」には、お買い上げの販売店に点検・修理をご相談くださいと書いてありますが、ネット通販やフリマで買った製品ではそれすら難しい場合もあるでしょう。
確かに3社とも記載している程度は同じように感じます。ただし、冒頭のNITEの公報動画にあるようなリスクを伝えきれているかと言われると、やはりそうではない感じがしますね。
3社に共通して言えることですが、爆発(破裂)の危険性があると判断したユーザーに対して、どうすればよいのかを書いていないことです。
この3社だけではありません。今まで読んだリチウムイオン電池を使う製品のトリセツで、異常を発見した場合は製品の取り扱いを中止するように記載されていますが、その後どうすればよいかが書かれているのを読んだ記憶はありません。
電池工業会のWebサイトを見ても製品の使用を中止してくださいとしか書かれていません。使い続けると爆発の恐れがあると書いてあるものをユーザーは持っていたくはありませんね。
それはそうですね。時限爆弾を所持しているのと同じことですからね。怖っ!
しかしながら、その後にとるべき行動を指示する安全表記は見た試しがありません。
NITEのWebサイトには、「もしも、強い衝撃を与えてしまった場合は、使用を中止して、製造・輸入事業者や販売元の修理窓口に相談してください。」と書かれています。
ですが、連絡が取れるまでには時間がかかると思いますし、その間電池をどこへ、どのように処置して保管しておけば良いというのでしょう?
金庫にでも入れますか。電池にアクセスできない製品はなおさらですね。
異常や故障の具体的な説明が不足しているのも一般的なトリセツによく見られる傾向です。
この製品はどんな状態が異常で、どんな状態が正常であるのか、という判断基準がユーザーに与えられていないことが多いと感じます。そういう情報が不足しているから異常をユーザーが判断できないのです。
ユーザーが判断できない異常についての注意や警告文は何の役にも立ちません。
なるほど、このハンディファンの発火や爆発事例はその典型例とも言えますね。
リチウムイオン電池に関する安全表記に関して言うと、業界のみならず政府レベルの対応も必要なのではないかと強く感じています。
たとえば満員の電車内とか逃げ場がないところでそれが起こったらいったいどうするのでしょうか。
発火や爆発しないリチウムイオン電池が望まれますね。