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[とくダネ!ナオキ 第1話]安規情報はもっと整理できる Vol.1

この記事では、TC業界の大ベテラン、現在はパセイジとクレステック両社の顧問を務める徳田直樹氏に毎回テーマを決めていろいろなお話をお聞きします。マニュアル業務に携わる皆さんに、少しでもお役に立てていただけるようさまざまな情報をお伝えしていきます。

記念すべき第1回目の記事として、安全規格(略して「安規」)についていろいろとお話をお聞きしたいと思います。
その安規情報ですが、国内では1995年に施行されたPL法(製造物責任法)が起点となっているという認識で正しいでしょうか?

そうです。今のようにマニュアルに安規情報を記載するようになったのは「PL法が施行されたときにどうしたらいいのだろう?」から始まっています。

アメリカではもっと早く施行されたようですが、各国のPL法は日本のそれと比較して大きく異なる部分はありますか?

アメリカでは1960年代に施行されています。ただし、どこの国もPL法自体はほぼ変わりません。

日本では、そのPL法を基に安全規格などが定められていったということでしょうか?

全然違います。PL法と規格の定め方はまったく関係がありません。そもそもPL法には安規情報の記載について何も書かれていません。

PL法というのは製造物の欠陥を問題にしています。その製造物の中にはマニュアルも含まれるという考え方です。そこで語られるのはあくまでもマニュアルの欠陥とは何か?ということです。

マニュアルの欠陥とは、具体的にはどのようなことが挙げられますか?

たとえば「間違えたことを伝えている」「ユーザーに注意すべきことを伝えていない」ことが欠陥とみなされます。それが発展した結果、「注意すべきことを伝える」のが安規情報とみなされるようになりました。当時はまったくの手探り状態でしたからしかたがありませんが、今でも安全と規格の役割を勘違いしている人がいます。

マニュアルをどうこうすべきということは、安全規格にはほとんど書かれていません。それを勝手に解釈して、これも書かないと・あれも書かないと……というように、いろんなことに対し「かもしれない」という想定をして、当時の法律の専門家があらゆる可能性を考えて初期の安規情報を作りました。

PL法対応のために一斉にマニュアル改版が行われた頃の話ですね。マニュアルの冒頭に「安全にご使用いただくために」などのタイトルで追加されましたね。

そうです。あることないことをいっぱい書いてしまった。その後も事故とか製品の欠陥だけではなく、誤使用的な事故が起こる度に内容をどんどん追加していったのです。そして気が付いたら、今のようにユーザーが読みたくもないような安規情報を何ページにもわたってまとめて書くようなカタチになってしまったという経緯があります。

今でもそのような側面がありますね?

ええ、今でもあります。当時と違って製品の安全設計が徹底されるようになりましたので、製品自体の欠陥は圧倒的に少なくなっているはずですが、過去の情報を消さないばかりに、今では不要になっているはずの情報までいっぱい書かれたままです。安全に配慮した設計にしなければならないことは法律で決まっていますので、過去はともかく今ではもう起きないはずの問題に対しても、ユーザーにとって不必要な情報なのに当時作った情報のまま今も残っているというケースが見受けられます。

その辺りを含めて安規情報はもっと整理できるということですね?

そういうことです。

いくつかの手段や手法が考えられると思いますが、まずはそれを1つ教えてください。

かなりの会社で実践されているのが、安規情報のデータベース化です。この手法では、記載が必要なものをそのデータベースからどういう基準で取り出すのかが重要になります。同じジャンルの過去の製品の安規情報を流用しても、その一部またはすべてが古い情報や必要でない情報になっているかもしれない。同様の製品であっても、新しくなるに従い安全設計は成熟しますし、部品のクオリティも上がっている。ですから、事実として安全になっているかもしれないわけです。つまり、対象となる製品にとって適切なデータを取り出さなければいけないのですが、これがきちんと実践されていないケースが少なくないようです。

データベースには、過去には必要だったかもしれないけど、今となっては必要でない情報が存在します。そういうものまで、新しい製品のマニュアルに全部もれなく記載されてしまっているのです。

それは製品の高度化によって書き直したり、削除したりというメンテナンスが及んでいないということでしょうか?

そうです。製品のマニュアルを作るのに手いっぱいで、データベースの整理がなされていないということです。データベースを作るときはいろんな人や外部の人も携わったが、そのメンテナンスをどこがどう実施していくかが決められていなかったことが明らかです。そのメンテナンスが、製品ごとに必ず必要であるにもかかわらず。

どのようなメーカーさんでも、一般にマニュアル担当部門があると思いますが、安規情報については法規部門と連携したり、あるいは確認したりしてというケースが普通ではないのですか?

法規関係の部門は、法律に照らし合わせたり過去の事例について調査したりすることが主な業務ですから、マニュアルへの記載事項に関して精通しているとはとても思えません。また、法規部門は法律に対応するための部署であって、予防措置をとるための仕事はほぼ行いません。法律がマニュアルに対して何かを書けと要求しているケースはほとんどないのです。

たとえば、労働者の安全を守るためにやらなければならないことを規定した法律である労安法(労働安全衛生法、安衛法とも言う)にはそれに近い要求があり、残留リスクのマップとリストを取扱説明書などで労働者に知らせることを求めています。労働者が使う製品に対する努力義務としての要求ですし、産業系以外ではほぼ行われていません。残留リスクがあるのは消費者向けの製品も同じなのに、家庭で使うものでそのような法律は一切ありません。

また、労安法の要求は、製品ではなく労働環境を対象にしています。その一環としてマニュアルにどのように書くというのは含まれますが、基本的には表示とかラベルなどが多いです。労働者が働く環境下でマニュアルも使うわけだから、安規情報もマニュアルきちんと書いておきましょうということになり、先ほど言った「残留リスク」がその「書いておくべき情報」と考えられるようになりました。

残留リスクとは、製品はいかに安全に設計しようともリスクが残る、つまり100 %安全はあり得ないということです。新しい製品が出ると、それを全部調べなければならない。設計が変われば、残留リスクも当然変わるということになります。

それが一般的に言われる「リスクアセスメント」ということになるのでしょうか?

そういうことです。整理するためのもう1つのキーワードは、リスクアセスメントです。

ありがとうございました。次回はそのリスクアセスメントについて、詳しく教えてください。

徳田直樹 プロフィール

徳田直樹

現 パセイジ顧問/クレステック顧問

  • 元 パセイジ取締役専務、同代表取締役社長
  • TC(テクニカルコミュニケーター)協会創立メンバー
  • 一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会 副評議委員長
  • 同 標準規格策定委員長
  • 同 JMA(旧マニュアルコンテスト)委員長
  • IEC/TC 3/JWG 16エキスパート (JWG:ISOとIECのジョイントワーキンググループ)
  • 元IEC/TC 3/MT 21 Convenor(議長)

【主な実績】

MT21 ConvenorとしてIEC82079-1:2012版策定
エキスパートとしてIEC82079-1:2019版策定に参画