1. HOME
  2. パセイジ通信
  3. とくダネ!ナオキ
  4. [とくダネ!ナオキ 第60話]Apple Intelligenceの衝撃

パセイジ通信

とくダネ!ナオキ
とくダネ!ナオキ

[とくダネ!ナオキ 第60話]Apple Intelligenceの衝撃

AppleはWWDC2024でApple Intelligenceを発表しました。

私はAppleユーザーではないのでApple Intelligenceがどのようなものか知りませんが、GoogleのGemini、Microsoft Copilotなど、大小に関わらずAIサービスはまさにしのぎを削る時代となりました。

Apple Intelligenceは生成AIをiPhone、iPad、Macなどの主要製品に組み込むことで、パーソナルなAIアシスタントの実現しようとするものです。このAIは処理をデバイス内に限定することでプライバシーを保護するとのことです。

これは、我々テクニカルコミュニケーターにとっても衝撃的なニュースです。

処理をデバイス内に限定する、ということがですか?

そうだと思います。ですから、ユーザーが所有している製品の取扱説明書をこれらのデバイスに読み込ませれば、AIアシスタントがそれを学習して、製品の使いかたをユーザーに教えてくれるようになるということなのです。

パーソナルAIが普及すれば、ユーザーはデバイスに読み込める形式の取扱説明書の提供を供給者に対して求めるようになるかもしれないのです。形式だけではありません。AIが理解できる内容でなければならないのです。

つまりAIが処理しやすい取り扱い情報である必要があるということでしょうか?

AIは完ぺきではありません。そのことについて話をしましょう。

PerplexityというAIを使った検索サイトがあります。このサイトで次のような検索をしてみました。キヤノンを選んだのはたまたま会社のコピー機がキヤノン製だったからです。

Perplexityで表示された画面

Perplexityで表示された画面

Perplexityはこのように最初に調べたソースを表示してくれます。この後に検索結果の内容が続くのですが、今話題にするのはこのソースの部分です。1番目のソースはキヤノンのサイトですらありません。コピー機の販売会社のサイトです。

2番目と3番目のソースはキヤノンのサイトですが、インクジェットプリンターのサイトです。

表示されていない4件目は同じくキヤノンのインクジェットプリンターのサイト、そして5件目がライバルメーカーの1つであるFUJIFILMのコピー機のサイトなのです。これはどういうことでしょう?

私の素人考えですが、キヤノンのコピー機の取扱説明書をAIが見つけていないのでしょう。
キヤノンのコピー機の取扱説明書はWebサイトからダウンロードできます。しかし、キヤノンはコピー機とは呼ばずに複合機と呼んでいるのです。つまり、AIはコピー機と複合機が同じであることを知らないのではないかと想像できるのです。

未だに学習できていないということですか(笑)

ちなみにFUJIFILMのサイトには「コピー機(複合機)」というテキストが見つかります。キヤノンのサイトには「モノクロコピー・複合機」というテキストは見つかりました。でもこの表現ではコピー機とは判断できなかったのでしょう。
この解釈が正しいかどうかはわかりませんが、案外こんな単純なことが原因のような気がします。

現時点の生成AIは未熟と思われる部分と、驚嘆する部分が共存していますね。

ではApple Intelligence対策も含めて、AIに対応した取扱説明書をどのように作ればよいのでしょうか。

マニュアルにまつわる仕事に従事している場合、今後最も注力すべき点の1つですね。

まず取扱説明書を電子データ化することは必須です。
次にAIが理解できるのはテキストだけだということを理解することです。

ずいぶん以前に話題にした画だけのマニュアルというのはダメですね。それとテキスト情報を失った画像中の文字や文字のアウトラインも無理ですね。

現状ではそういうことですね。その電子データが特定の製品の取扱説明書であることを認識させなければなりません。人間が読む取扱説明書であれば表紙にほとんどの必要情報が書かれます。しかし、AIは電子化された表紙に書かれた情報のどれがモデル番号であるのか「モデル番号:XXXX」などと書かれていない限り正確には識別できないのです。

ではその識別情報が必要ということですね。

そうです。電子データに関連する製造者、製品のモデル名、さらに取扱説明書であることなどのコンテキストをAIに伝えるために使われるのがメタ情報です。
HTMLであればmetaタグをつけてこれらの情報を記載します。マニュアルの電子データにはメタ情報を付加することが必要となるわけです。メタ情報の作り方についてはそれだけで1つのテーマになるので、今日は説明しません。

次に、AIはイラストを理解できないことを理解することです。現時点では、AIは周囲のコンテキストを使ってイラストを生成することはできます。しかし、イラストを見てその意味を理解することはできません。そんなことはないといわれる方がおられるかもしれません。たとえば、Apple Intelligenceのサイトに次のような説明があります。

Apple Intelligence により、写真やビデオの検索がさらに便利になりました。自然言語を使用して、「タイダイのシャツを着てスケートボードをする Maya」や「顔にステッカーを貼った Katie」など、特定の写真を検索できます。
言語と画像認識を使用して、Apple Intelligence は説明に基づいて最適な写真とビデオを選択し、写真から特定されたテーマに基づいて章でストーリーラインを作成し、独自の物語の流れを持つ映画にまとめます。

イマイチよくわかりませんが、言語を理解して画像を処理できるということでしょうか?

Apple Intelligenceは画像を認識するとApple が言っているのです。それは次のような意味です。適切なテキストによるプロンプトを与えれば画像を探し出すことができます。「タイダイ」「シャツ」「スケートボード」という一般的な言葉が識別に使われています。「Maya」は写真のキャプションに使われていなければ一般的な女性の名前と認識されるだけかもしれません。これらの言葉をもとに写真を探してくれるわけです。数千枚の写真から短時間で候補の写真を見つけてくれるでしょう。

しかし、AIはイラストを理解しているわけではありません。イラストの中からプロンプトで指示された対象を見つけ出しているだけなのです。しかし、取扱説明書のイラストは、人間がテキストの意味を理解するのを助けるために使われています。AIがテキストの意味を理解するために周辺のイラストを見ることはありません。そのように作られてはいないからです。テキストの意味を解釈するだけです。つまり、テキスト説明だけで理解できるように文章を書く必要があるのです。

たとえばテキストの側にイラストが複数ある場合、イラストに正確なテキスト情報が付属していなければ、AIは正しく判断することはできません。テキストがないと説明に必要なイラストを正確に選択できない可能性があるということです。イラストにはその内容を説明するためのテキスト情報を付加する必要があるのです。たとえば人間ならすぐに理解のできる次のようなイラストがあるとします。

JVCケンウッド製トランシーバーの取扱説明書より

JVCケンウッド製トランシーバーの取扱説明書より

このイラストは人間が読むには問題はありません。しかしAIは矢印を識別できないのでキャプションだけを読みます。反対の意味のキャプションが書かれているのでAIがどう判断するかは想像できませんが、無理やりつじつま合わせをするであろうことは想像できます。

現在のキャプションに、「右に回す」と「左に回す」という矢印を説明するキャプションを追加する必要があることは想像に難くありません。

取扱説明書によく使われる表現に「本機」があります。これは翻訳することもできない用語なので、私は昔から「本機」という用語は使ってはダメと言ってきているのですが、CMSなどで使いやすいせいか未だによく使われています。

これもAIには理解されません。必ずモデル番号など対象となる製品の識別情報を記載するべきです。

同様に同じ機能を説明するのにメーカー独自の名称をつけるのもやめたほうが良いでしょう。
差別化したいのでしょうが、独自の用語はAIに無視されてしまうことに注意しなければならないのです。

今後、マニュアルなどの取り扱い情報を制作するシーンにおいて、どの程度それらAIによる解釈を意識すべきだと思いますか?

テキストだけで理解できるように文章を書くというのは先に述べました。そのほか、イラストなどへのメタ情報の配慮も必要です。ひょっとしたら、将来的にある程度の規格が策定されるかもしれません。

そういう意味で、テクニカルコミュニケーターにとっては大変な時代になってきたなと思います。
でも、AIに対応するとしても、誰にでもわかりやすい説明を書くという本質に変わりはありません。

徳田直樹 プロフィール