[とくダネ!ナオキ 第43話]安全表記に現れる国民性(その2)
今回も前回に引き続き安全表記に現れる国民性を話題にしたいと思います。
日本のそれとたとえば欧米との対比ですか?
今回話題にするのはマニュアル内で使われている図記号の説明です。
BOSCHのRepair Hintsは特殊な例なので今回は一般的なドラム式洗濯機のマニュアルを比較してみます。これは某メーカーの電気洗濯機のマニュアルに実際に記載されているものです。
某メーカーとしたのは、別に調べた2社もほぼ同じであったからです。
JIS S 0101:2000によれば一般注意図記号と危険、警告および注意の組み合わせは「危害・損害の程度」を表すために使われますが、このマニュアルでは危害・損害の程度を表すとは説明されていません。
「死亡または重傷を負う可能性がある内容を示します」は何を意味するのかあいまいな表現です。他の2社も似たような表現を使っています。これはJISにもAEHAのガイドラインにも従っていない表現です。個人的には、制作者が「危害・損害の程度」という強い表現を使いたくないのだと思います。
ガイドラインに従えば「誤った取り扱いをしたとき死亡または重傷を負う可能性があることを示します」となります。あるいは「書かれた注意を守らないと死亡または重傷を負う可能性があることを示します」などとすればもっとわかりやすくなるのではないでしょうか。
もちろんこれが国内の比較対象ということですね。
そうです。修理マニュアルはユーザーマニュアルとは性質が違いますので、比較のためにBOSCHのユーザーマニュアルを調べてみました。ドラム洗濯機のUser Manualです。
危害の程度はWarning(警告)とCaution(注意)なので日本のマニュアルと同じですが、一般注意記号とシグナルワードの組み合わせはWarningだけで、Cautionはシグナルワードしか使っていません。
危害の程度を表すのはシグナルワードなのでこの使いかたでも問題はありませんが、日本のマニュアル制作者はこのように一方には使い、他方には使わないことを好まないのは想像に難くありません。
ま、きっちりするというのが基本ですからね。
次に、パナソニックのマニュアルとBOSCHのマニュアルにおける、子供の安全に関する注意を比較してみました。こちらは国民性の違いがよく現れていると思います。前回の記事で話題にした潜在的ハザードは、ここでは洗濯機を遊びの道具にするという子供の習性です。
国民性というよりまったく違うものですね。(笑)
パナソニックのマニュアルはイラストを使い、わかりやすく子供への危険性を説明しています。やはり日本のユーザーには好意的に受け入れられるでしょう。マニュアル制作者の工夫がうかがわれます。しかし、BOSCHのマニュアルはイラストなしで味気ない。「必要な注意は網羅しました」という制作姿勢に思われます。
これは単なるドキュメントですよね。
洗濯機のドラム内に子供が閉じ込められる危険性だけでなく、廃棄する製品に子供が閉じこめられる危険や洗剤の毒性にまで注意が及んでいます。使わなくなった洗濯機の処分の仕方が日本とドイツでは異なるというのも理由にあるかもしれませんが、ここまで書くのは国民性の違いが現れているとも思います。
そうですよね。これを見るとマニュアルも製品の一部なのだというのが伝わってきます。
なお、洗剤の安全性は日本や英米では公的機関によって確認されていますので、洗剤のパッケージなどには必要な注意が書かれています。従って、日本の洗濯機のマニュアルには書かれていません。BOSCHのマニュアルに洗剤の毒性について書かれている理由は不明ですが、やはり国民性によるのかもしれませんね。