[とくダネ!ナオキ 第111話]危険!筆者はしつこい — それでも繰り返す理由
またまた警告メッセージに使用するシグナルワード「危険」についてです。もう何度書いたか忘れました。読者の方々もまたかと思われるでしょう。でも、何度でも言わせてください。
第93話で、
日本では「危険」という言葉から受ける印象は緊急性があまり高くありません。したがって、「危険」というシグナルワードが多用される傾向があります。
と書きました。
第22話では次のような例を取り上げました。


いずれも、ISO 3864-2:2016で規定された潜在危険重大度パネルに類似したデザインと「危険」というシグナルワードを使ってはいますが、この規格のシグナルワードの定義に準じた危険な状況を示しているわけではありません。
先日、たまたま、量販店で見たIHクッキングヒーターの取扱説明書に「危険」というシグナルワードが使われているのを見つけたので、再度、この話題を掘り下げてみたいと思いました。(しつこいと言われてもかまいません。)
量販店で見かけたIHクッキングヒーターを販売している4社の取扱説明書に記載された表示の説明が次です。(あえて社名は記載しません。)
A社:

B社:

C社:

D社:

CとDの2社の説明書には[
危険]の意味がISO 3864-2:2016に準じて説明されていますが、完全に同じではありません。(文末に規格の定義とその解釈について書きます。)
C社とD社のこの説明に問題があるわけではないのです。筆者個人は量販店で市販されるような消費者用製品に危険レベルのハザードはあってはいけないと考えています。(これも以前に書いたような気が…)
2社の取扱説明書に記載された危険レベルの安全情報が次です。
C社

D社

どちらにも「分解、修理、改造をしてはいけない」という意味の記載があります。しかし、これを守らないことが、高い確率で死亡や重傷につながるでしょうか。分解してしまうと製品を使用できなくなるので事故はほぼ起きないでしょう。電源をつないだまま分解すれば事故は起こり得ますが、分解しようとする人が事故を起こすようなレベルである確率は高くないと思われます。改造や修理を行うユーザーがいたとしたら、ユーザーにはそれなりの技術や経験があることが予測されます。こちらも重大事故につながる可能性はある程度軽減されるでしょう。危険レベルとは考えにくいのです。
「危険」というシグナルワードが使われる原因は、日本では「危険」という用語が持つニュアンスが差し迫ったものではないからだと以前から言ってきました。日本における「危険」という用語のニュアンスと英語圏における「Danger」という用語が持つニュアンスの比較を、例によってAIにやってもらいました。
AI:
いいご質問ですね。
「危険」と「Danger」という言葉はどちらも同じ意味を持ちますが、文化や言語の背景によってニュアンスや受け止め方に違いが出ます。
1. 日本語「危険」
- ややフォーマルで硬い表現
「危険」は日常会話でも使われますが、どちらかといえば看板や説明書、警告文などの公式な文脈で目にすることが多いです。
- 抽象度が広い
「危険な運転」「危険な思想」「危険人物」など、物理的なリスクだけでなく心理的・社会的な場面にも広く使えます。
- 回避・予防の意識
日本社会では「危険」を避けることが強調されがちで、「危険=なるべく近づかないもの」という印象が強いです。
2. 英語「Danger」
- 直接的で強い響き
英語圏では “Danger” と書かれていれば、即座に命の危険や重大な事故を連想しやすいです。
- 限定的・物理的
主に物理的なリスクに使われ、「危険人物」や「危険思想」のような比喩的表現はあまりしません。その場合は threat, risk, hazard など他の語が用いられます。
- アラート性が高い
看板やラベルで “Danger” が使われるときは、”Warning” よりも強く、「即行動をやめろ」「近づくな」という緊急停止信号的なニュアンスがあります。
3. 比較まとめ
日本語「危険」 英語 “Danger” 幅広い文脈で使われる(物理・心理・社会) 主に物理的・生命に関わるリスク 日常的にも見かけるがやや抽象的 強烈で即時的な警告のニュアンス 「避けるべきもの」「近づかないほうがいい」 「今すぐやめないと命に関わる」 柔らかめの印象になる場合もある 非常に直接的・迫力がある
👉 まとめると、
- 日本人にとって「危険」は比較的幅広いリスクを示す 一般警告
- 欧米人にとって “Danger” は 命の危険を告げる赤信号 に近い
という違いがあります。
私が漠然と考えていたことをAIはよくまとめてくれました。こういう時にAIは便利です。
IEC/IEEE 82079-1:2019には「シグナルワード「危険」、「警告」、「注意」が(ユーザーの)行動に影響を与えないかもしれないので、状況によっては「死の危険」などのシグナルフレーズを使ったほうが効果的かもしれない」と記載されています。しかし、「死の危険」は取扱説明書には使いにくいです。消費者用製品の取扱説明書には「危険」というシグナルワードを使わないほうがよさそうです。産業用製品でもなければそのようなリスクは残っていないはずですから。
念のために申し上げておきたいのは、私は決して「危険」という用語を使うなと言っているわけではないということです。
と「危険」を組み合わせて使うと意味が国際規格で定義されたものと解釈されるので、消費者用製品の取扱説明書には使わないほうが良いと言っているだけです。「…すると危険です」などのように文中で「危険」を使うことは問題ではないのです。海外の説明書にも次のような表記はあります。
:Danger from electrical voltage
最初に取り上げた説明も次のように
という見出しを取り去ってしまえば何の問題もなくなります。

さらに、3行目を

としても問題はないのです。どこを変えたかを示すためにあえて赤字にしましたが、黒字でOKです。また、次のようにしてもかまわないのです。

ここで使った「危険」は一般用語であってシグナルワードではないからです。このようにした場合、表示の説明から「
危険」は削除してほしいと思います。
さて、ISO 3864-2:2016のシグナルワードの定義は以下の通りです。
DANGER(危険)
Signal word used to indicate an imminently hazardous situation which, if not avoided, will result in death or serious injury(回避しないと死又は重度の障害につながりうる,切迫した危険な状況を示すために使用する標識言語)
WARNING(警告)
Signal word used to indicate a potentially hazardous situation which, if not avoided, could result in death or serious injury(回避しないと死又は重度の障害につながりうる,潜在的に危険な状況を示すために使用する標識言語)
CAUTION(注意)
Signal word used to indicate a potentially hazardous situation which, if not avoided, could result in minor or moderate injury(回避しないと軽度又は中度の障害につながりうる,潜在的に危険な状況を示すために使用する標識言語)
DANGER(危険)もWARNING(警告)も結果はdeath or serious injury(死または重度な障害)で同じです。しかし、DANGERはwill resultと書かれているので結果の確率は感覚的にほぼ100%です。WARNINGはcould resultと書かれているので結果の確率は数%から30%です。確率は条件により変わりますが、ニュアンス的には運が悪ければというレベルです。回避しなければほぼ確実に死ぬようなリスクを持つ製品を量販店で売るなどもってのほかです。なぜ「危険」を使うのかという理由を私なりに考えました。多分、結果の重大性だけを考えて確率を考えていないのだと思います。過去に死亡事故が起こったことが2~3件あったというだけで「危険」を使いたくなるのだと思います。ありえないような極端な話ですが、製品が10台しか売れなかったのに、死亡事故が3件起こったとしても、確率は30%なので「警告」を使うということです。繰り返して言いますが、「危険」も「警告」も結果の重大度は同じです。紙の断裁機の刃の傍での作業や切り立った崖の上での作業など切迫した危険がある状況に対してだけ「危険」を使うのです。
話は変わりますが、CAUTION(注意)はISO 3864-2:2016では物的損害や家屋・家財などの損害については言及していないので、A社,B社,C社,D社の説明はすべてこの規格に合っていません。これは一般財団法人家電製品協会が発行する「家電製品の安全確保のための表示に関するガイドライン」の定義に合わせたものと思われます。他の業界団体、例えば一般社団法人日本工作機械工業会や一般社団法人日本食品機械工業会などはISO 3864-2:2016と同じ定義を使用しています。
一般に、物的損害や家屋、家財の損害に対するシグナルワードは次のANSI Z 535.6の定義を使うことが多いようです。その定義は以下の通りです。
NOTICE: Indicates information considered important, but not hazard-related (e.g., messages relating to property damage). The safety alert symbol shall not be used with this signal word. When a signal word is used for messages relating to property damage. NOTICE is the choice of signal word.和訳:重要と判断されるが,危険減と関連していないとみなされる情報(例えば,財産の損傷に関連するメッセージ)を示す。安全警告記号を,このシグナルワードとともに用いてはならない。シグナルワードを財産の損傷と関連するメッセージのために使用する場合は,NOTICEがシグナルワードの選択肢である。
この規格のAnnex BにNOTICEの日本語は「注記」であると記載されています。
それゆえ一般的には「注記」を使うことが多いと思われます。