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パセイジ通信

Tram Tramway de Montpellier public transport transit transportation in France
とくダネ!ナオキ

[とくダネ!ナオキ 第65話]情報が多すぎる!

私が、地図を見ながら自分が向いている方向が地図の上だと分かっているにもかかわらず混乱してしまったことを白状します。

前回ピクトグラムのときに紹介したフランスのトラムの路線図を初めて見たときのことです。

フランスのトラムの路線図

フランスのトラムの路線図

私がこの路線図を初めて見たとき、向かってすぐ右の線路を走るトラムが写真の奥の方向へ進むと直感的に考えていました。左側通行だと無条件に思い込んでいたからです。ところが、路線図を見ている最中に写真右に写っているトラムが後ろから来て、前方へ進行して行ったのです。

写真に写っているトラムは反対側の線路を走行している車両ということですね?

はい。写真のトラムと路線図の間にレールがありますが、そのレールではなく一つ向こうのレールにトラムが後ろから来たので意表を突かれたのです。あらためて、路線図の現在いる停留所の部分を見ると、矢印が下に向いています。
この路線図は、見ている人が向いている方向が上に配置されています。路線図を見ている人の後ろの方向へトラムが進むことを矢印が示しているわけです。

つまり路線図とは反対側に行きたかったのですね?

それに気が付かなかった自分が情けなくなりました。

日本ではどうだろうかと思い探してみました。次は都営地下鉄三田駅のホームに掲示された路線図です。
電車はこの路線図の右側を後ろの方向へ進行します。フランスのトラムの路線図と同じ配置です。

都営地下鉄三田駅の路線図

都営地下鉄三田駅の路線図

フランスの路線図とは異なり反対方向の駅も標示されていますね。

フランスでは現在居る停留所が一番上に表示されているのに対して、都営地下鉄では上から1/3くらいの位置に背景深緑の白抜きで駅名が表示されています。路線が始発駅からすべて表示されており、現在居る駅名(三田)の横に小さな下向き矢印で進行方向が表示されています。

この矢印に気が付かなければ上に進むと解釈する人が出るかもしれません。状況によっては 五反田へ行きたい人が、このホーム(2番線)から出発する電車(反対方向に行く)に乗ってしまうかもしれません。浅草線の路線図は、フランスに比べて圧倒的に情報が多いのです。

これから電車に乗ろうとする人にとって、その電車がすでに通過してきた駅の名称や合流した路線の情報は必要でしょうか。不要な気がします。そこで、上の路線図にちょっと細工をしてみました。

前の駅を削除した路線図

都営地下鉄三田駅の路線図

元の路線図

このように手前の駅を記載しないほうが少しは誤解されにくくなるような気がします。

そうですね。ただ、土地勘がない利用者には記載があった方がわかりやすいかもしれません。
せめて乗車駅の上(反対)側に、品川・羽田空港・馬込方面などとあると地理的に捉えられます。
情報量を減らしてわかりやすくするか、全駅を網羅して路線範囲を俯瞰させるか、どちらが良いとも言いにくいですね。

さらに見ていくと、各駅で乗り換えできる路線がピクトグラムで駅名の右側に表示されています。大門駅と新橋駅の部分は次のようになっています。

ピクトグラム部拡大写真

ピクトグラム部拡大写真

都心部では乗り換えのない駅を見つける方が困難ですよね。
乗換案内がない時代の東京は本当にこれで苦労しました。

さすがに新橋駅は乗換可能なJR線が多いのでスペースが足りず、[JR](JR Lines)になっていますが、これは仕方ありません。JR Linesでも分かる人にはわかります。

ここまでは日本とフランスの路線図の見せ方にさほど違いはありません。ところがそんなレベルではない大きな問題を見つけてしまいました。もっと詳細な路線図が三田駅のホーム上にはあるのです。それを次に示します。

さらに詳細な路線図

さらに詳細な路線図

見るからに東京の路線図という感じです。

この図はホームの中央に押上方面電車を背にする位置に掲示されています。左手が押上方面なので方向に対する違和感はありません。裏面は左右が逆になっており、そちらも方向に対する違和感はありません。しかし、情報量には圧倒されます。地下鉄終点の押上駅付近の拡大図が次です。

押上駅付近拡大図

押上駅付近拡大図

押上駅に、(17),(21),(A20)と3つの数字が記載されています。最初の2つについては、この路線図の中央上部に凡例があり、三田駅から押上駅までの所要時間であることがわかります。

あ、なるほど。日本的でご親切な表示ですね。

ですが、すべての人が凡例に気づくとは思えません。(A20)は浅草線の駅ナンバリングですが、そのことは路線図内のどこにも書かれていません。

日本では一般的になりましたが、たとえば外国人観光客がすぐに気付くことができるかどうか、ということですね。

エアポート快特とは羽田空港発の電車です。私にはエアポート快特は押上駅が終点のように見えます。

そうとしか読み取れません。

紛らわしいのですが、三田駅から乗れるエアポート快特には、押上止まりのものと成田空港まで行くものがあります。成田空港直通のものは京成線内ではアクセス特急と呼び方を変えるらしいのです。

それはわかりにくい。連結や切り離しを行うはやぶさとこまちは理解できますが。

そのことをこの路線図から読み取ることはできません。時刻表を丹念に見ればわかる人にはわかるというレベルのわかりやすさです。

また、押上駅から左へ、快特、アクセス特急、特急、通勤特急、快速、普通の6本の線が出て、先は複雑に分岐したり、交差したりしています。多くの電車が浅草線内から京成線内に直通運転されています。

しかし、三田駅では、駅のアナウンスを注意深く聞くか、電車の行き先表示を見るしか、どの電車に乗ればいいのかを知る術はないのです。接続路線についてここまで詳細な情報は必要でしょうか。と言っても私に具体的なアイデアがあるわけじゃありません。

確かに平面上の記載はもはや限界ですね、特に首都圏は。

それに、京成線内の青砥駅から京成上野に向けて、他の色々な線と交差した線が戻るように分岐して描かれています。途中駅からの乗り換え情報も記載されています。とてもごちゃごちゃしています。しかし、京成上野方面へ向かうには青砥駅で乗り換えなければなりません。京成上野方面に関する情報は青砥駅で確認可能なので、青砥駅からの分岐は一番下から1本京成上野方面へ引けば問題はなさそうに思えます。

このように、必須ではない情報が多すぎるのは外国人など一部の人にとっては、かえってわかりにくいと思います。親切があだとなっています。

確かにこれらの案内を創る立場になれば、かなり難易度の高い仕事ですね。しかも正解はないですよね。

振り返えれば我々の仕事でも同じことをやっている可能性があります。
設計開発部門から発信された情報をすべて一つのメディアに盛り込んではいないでしょうか。
ターゲットオーディエンスは製品のライフサイクルの局面によって必要とする情報が違います。

取扱説明書などに一つのメディアにすべての情報を盛り込むと今回の例と同じ問題が生じます。
製品のライフサイクルの局面に合わせて絞り込んだ情報を時とメディアを選んで発信したいと思います。

徳田直樹 プロフィール

Markus Mainka – stock.adobe.com