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[とくダネ!ナオキ 第10話]マニュアル評価と国際規格

今回はマニュアル評価に関係する国際規格について教えてください。

以前にもお伝えしましたが(第7話 ライフサイクルごとの情報発信)、新しい国際規格では、制作プロセスというのがすごく重要視されるようになりました。

製品のライフサイクルのいろいろなフェーズで必要とされる情報をユーザーに提供するために、そのための制作プロセスの整備というのが問われるようになっています。平たく言うと、ユーザーにどういう情報をどういうタイミングで提供していくかを考慮してプロセスを設計する、ということが要求されています。

それが「情報管理プロセス」という章で国際規格に新たに追加されました。

IEC82079-1でその章が追加されたということですね。

正しくはそのエディション2(2019年版)で追加されました。改定前のエディション1(2012年版)にはこの章のような内容はまったくありません。

そういえばエディション1では策定委員のコンビーナ(議長)をされていたのですね?

そうです。突然振られたんだけどね。(笑)

そのエディション2でその章が追加されたときは参加されていなかったのですか?

そのときはエキスパートメンバーとして参加しました。ですから、その会議ではああしよう、こうしようと喧々囂々とやっているのです。IEC82079-1に関して言えばずっと関わっています。

マニュアルに関して言えば、IEC82079-1が基本的な基準になっているということで良いですね?

そうです。IECと付けられていますが、IECとISOのジョイントワーキンググループで取りまとめているのです。ですので、IEC/ISO82079-1と名称を変えたいくらいです。

IECとISOの機関どうしがジョイントして策定した、ということですね。

たとえば、次の82079-2はISO82079-2になる可能性が高いです。これは最初にどこが始めたかで規格の名前が決まります。80000台の規格にはそういうものが多いです。

ジョイントワーキンググループで策定する規格は、ISOとIECの取り決めで、基本的には最初に関わった側の名前が付くことになっています。

そういうことですか。

82079-2がなぜISO82079-2になるかと言うと、ISOの下部組織に、COPOLCO(https://www.iso.org/copolco.html)というコンシューマー・オリエンテッド(消費者向け)の組織があります。そこが、例のマニュアルが画だけのスウェーデン製の家具で、ユーザーが自分で組み立てたときに、イギリスやアメリカで事故が多かったというのを問題視しました。

その機関が、そのような組立式製品のマニュアルの作り方に関して規格を作ろうという動きを現在しています。

日本でも有名なスウェーデン製の家具と言えばすぐわかりますね。
私も15年前くらいに子供用の組立式ロフトベッドを購入しましたが、その当時からマニュアルに文字が無かったと記憶しています。

それがいいからと真似をするメーカーもありましたが、結果的にそれじゃダメだという結論に至りました。

どうしてその画だけのマニュアルがダメだと判断されたのですか?

一番ダメな理由は、家具などの木材製品の組立にはネジが必ず必要です。そのネジにも大きさや長さ、種類などいっぱいあります。たいていの製品にはそのような多品種のネジが同梱されているのですが、ユーザーにとってそれらのネジの識別がそんなに簡単にできません。ネジを間違えると事故が起きます。

でも、ネジは種類別に袋に入れられ、マニュアルに記載されているネジ記号が付いていたと思いますが。

ユーザーによっては平気でネジを袋から出してしまいます。そうすると、種類がわからなくなります。

それで似たようなネジを間違えたまま組み立てて、強度不足になった事故が欧米で何件も発生しました。

それはユーザー責任にはならないのですか?

重要なのは、ユーザーがいかにネジを識別できるかということです。

日本では少ないケースかも知れませんが、大きな家具は、普通は壁にネジなどを使って固定します。その場合、固定する壁の材質により使用するネジの材質や種類も変わってきます。

こうなると、ユーザーはどのネジを使ったらよいのか判断に迷います。コンクリート用、石壁用、板壁用、板壁でもその木材や壁の状態でも異なります。それにベニヤのような合板や日本では一般的な石膏ボードでは、固定部の壁裏に芯となる木材が入っている箇所とそうでない箇所があります。

こういうケースでネジが何種類も付属していても、その見分け方や説明が書いていないのであれば、事故が起きてもユーザーによる過失とは言えません。

やはり家具の転倒事故が多く発生したのですね?

欧米で多かったのは、子供が引き出しの上に乗ってタンスが転倒する事故でした。原因は不適切なネジを使用していたり、ネジでタンスを固定しなかったりしたことです。

メーカーは製造物責任を問われたのですか?

いえ、製造物責任ではなく、説明不足です。つまり設置情報としての安全情報が無かったということです。組み立てる画しかないということは、そういうことを説明する情報が無かったということです。

確かに、そういう安全情報を画だけで伝えるというのは難しいですね。

画だけではできませんね。ですから、やはり文章による説明は必要で、各国に販売するためには翻訳も必要になるということです。

ということは、そのスウェーデンの家具メーカーもマニュアルを見直しているということですか?

そういう事故が起きた製品に関しては見直されています。文字情報も記載されるようになりました。ただし、壁に固定する必要がある製品は、日本では住宅事情の違いなどからあまり売れません。いわゆる欧米向けの大型家具ですね。

そういう意味で日本では目にする機会が少ないかも知れませんし、日本ではこのメーカーの事故があまり起きていない理由の1つだと思います。でも、アメリカやイギリスではこのメーカーに対する訴訟がかなり起きています。

それにしても壁面固定などはDIYとしては常識のような気もしますが。

DIYが趣味の人は常識として当たり前に知っていることですが、そうじゃない人も買うんです。そういう人のために情報が必要なのです。

そういった海外事情に対して、日本のメーカーの意識はどうでしょう?

日本のメーカーはその辺りがまだよくわかっていない気がします。いまだに免責条項であるという考え方が染みついているのです。

設置に関してはユーザー側の責務や問題であるという考え方ですか?

ユーザーの責務という判断ではなく、自分たちは悪くないという考え方ですね。でも免責だと思っていても実際には免責にならないことがけっこう書かれています。

それは安規情報としても興味深いところですね。では、次回は最後にマニュアル評価における安規情報についてお聞きしたいと思います。

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徳田直樹 プロフィール