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とくダネ!ナオキ
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[とくダネ!ナオキ 第55話]たとえばWi-Fiという表記

今回は読者からの相談から話は始まります。

その読者の会社では、取扱説明書で「無線LAN」という用語だけを使って説明するより「Wi-Fi」を併用した方が伝わり易いため、説明書等の末尾に『「Wi-Fi」は「Wi-Fi Alliance」の商標又は登録商標です』と付記すれば問題ないとする見解のもと、無線LAN(Wi-Fi)ルーター、Wi-Fi設定画面などという表現で「Wi-Fi」という用語を使用していました。

確かに一般的にWi-Fiが通称として使われていると思いますが、無線LANとかワイヤレスLAN、アクセスポイントなどさまざまな記載も見受けられますね。

最近、その会社で「製造業表示公正競争規約の解説書改訂他について」の説明会が開かれたそうです。説明会の後の余談の中で、説明会の主催部署の人が、Wi-Fiなどの用語は取説の中で使えませんと言われたそうです。

普通に使われていると思いますが?

件の読者が「既存の取説中で使用しているし、今後も使用したいがどうすればよいか」と担当者に問い合わせたところ、グレーなものは使わない方が良いという回答だったそうです。
採用にいたった経緯等を聞くわけでもなく、Wi-Fi Allianceへ問い合わせるわけでもなかったそうです。そして数日後、使用NGの通達が社内に出たそうです。

Wi-Fiは無線LANの1つで最も使われている規格だと思いますが、では他にどのように記載したら良いのでしょうか?

そうですね。Wi-Fiという用語は取扱説明書に留まらず、ホームページ内でも至るところで使用されており、これをすべて「無線LAN」というような用語に変更する場合、大変な手間とコストがかかります。
そこで、他社の引用例などもその担当者に紹介して使えるようにしてほしいと交渉したのですが、「グレーなものは使用しない。」の一点張りだったそうです。日本の会社にはありがちな個人の対応です。

何故ならばという理由が欲しいですね。

このあたりで私に相談が入りました。まずWi-Fi AllianceのWebサイトを調べてみたところ以下の記載がありました。

Brands for Public Use
Select brands and logos are offered license free and intended to be used widely throughout the Wi-Fi ecosystem by Wi-Fi Alliance members, non-members, industry partners, media, and analysts to describe products, technology, network deployments, and operating system support. Download the license-free logos.

訳:
公共利用のためのブランド
一部のブランドとロゴは、Wi-Fi Alliance™ メンバー、非メンバー、業界パートナー、メディア、アナリストによる、Wi-Fi エコシステム全体での製品、技術、ネットワーク展開、オペレーティングシステムサポートの紹介を目的として、ライセンスフリーで提供されています。ライセンスフリーのロゴをダウンロードしてください。

これによると、取扱説明書で操作の説明や機能の説明のための使用は公共利用にあたると考えられます。
この情報に大手メーカーの使用例を合わせて、件の担当者に示したのですが、他社の話であって、グレーであることに違いはないと一蹴されたそうです。

グレーであるからは理由になりませんね。

じゃあ、Wi-Fi Allianceに問い合わせてほしいといったところ、回答が万が一、NGだった場合、どうするんだ?と聞かれて、担当者自身では質問してくれなかったそうです。

論点が変わってますね。(笑)

私はこういう人を責任取りたくない症候群の人と呼んでいます(笑)。IEEE規格にしたくらいですからWi-Fi AllianceはWi-Fi技術を多くの人に使ってほしいはずです。Wi-Fiという用語を説明中で使うことをNGというとは思えません。

ここまでくれば、Wi-Fi Allianceに読者が直接問い合わせるしかないという結論に私たちは至りました。
そこで次のような英語の質問を2人で作り上げ、読者の会社名を記載してWi-Fi Allianceにメールしました。

Can we use the term Wi-Fi as a general term in the instruction manuals and catalogues of IoT products?
Or, do we need to include a statement in the instruction manual, such as ‘Wi-Fi is a registered trademark of Wi-Fi Alliance’ ?(質問の部分のみ)

回答は次のようでした。

Thank you for checking with us regarding using “Wi-Fi” in your manuals.
You may use the term “Wi-Fi” in your instruction manuals. We do ask that you attribute the term “Wi-Fi” to Wi-Fi Alliance. As you mentioned in your email, please use the registered trademark symbol “Wi-Fi®” in your first usage and provide the footnote: “Wi-Fi is a registered trademark of Wi-Fi Alliance”.(回答部分のみ)

“You may use…”ですから使っても構わない、という意味ですよね。

そう、お墨付きが得られました。取扱説明書で初出のWi-Fiという用語をWi-Fi®にすること。そのページの脚注に「Wi-FiはWi-Fi Allianceの登録商標です。」と書くこと。これだけです。“do ask”で用語の帰属に関して強調しています。“instruction manuals”だけです。カタログは商用利用という解釈でしょうね。
先にも書いたようにグレーなものを使用するなという議論はいろんなところで行われています。しかし、グレーなものは、はっきりさせればいいのです。ちょっとした行動力があればOKです。

内情はわかりませんが、それは説明会の主催部署の仕事だと思いますね。

似たようなことが他にもあります。メーカーのWebサイトのカタログや取説のダウンロードのページに、「PDFをご覧になるにはAdobe® Acrobat® Readerが必要です。」というような記載がよく見かけられます。このような記載はホントに必要でしょうか。Adobe社のホームページを調べてみました。すると次のような記載(ママ)がありました。

『PDF自体は既にAdobe社の手を離れて国際規格として成立しています。よってPDFを配布する際には商標に関する表記は必要ありません。また、PDFの閲覧には必ずしもAcrobat Reader DCが必要というわけでもなく、OS付属のツールで参照可能な場合が多くあります。
Acrobat Readerについて厳密に記述すると以下のようになります。
Adobe® Acrobat® Reader®はAdobe Systems Incorporated(アドビ システムズ社)の米国またはその他の国における商標または登録商標です。
多くの企業ページを参照すると分かりますが、本文中の®の省略を明記して®を記述しないものが多数派になっています。』

「PDFをご覧になるにはAdobe® Acrobat® Readerが必要です。」という記載は不要、さらに、PDFという用語に商標に関する記載は不要ということです。

そうですね。今ではPDFを閲覧できるビューアーなんて数多ありますね。

このような表記はPDFが国際規格になるより以前に使われていたものが、削除されずに今も残っているということなのでしょう。一度書いたものを削除しないというのは日本のメーカーにありがちなことです。

以前にも指摘がありました。

そうです。だから取扱説明書の安全情報がどんどん増えていくのです。これは3年前に第1話の中で言ったことですが、読者が限られているので。多くのメーカーでは、いまだに改善されていないということでしょうね。

ありがとうございました。

徳田直樹 プロフィール