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[とくダネ!ナオキ 第86話(コラム)]Alexandra構文は非識字の問題?

Alexandra構文と呼ばれる文章がXで話題になっていました。文章を読ませて、それに続く問題に回答させた結果が取り上げられていたのです。

X上に表示されたレイアウトのままのAlexandra構文の問題が次です。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名
前Alexandraの愛称であるが、男性の名
Alexanderの愛称でもある。

問:この文脈において、以下の文中の空欄に当てはま
るもっとも最適なものを以下から選べ

Alexandraの愛称は(  )である。

① Alex

② Alexander

③ 男性

④ 女性

とくダネの読者であれば正解が①であることはすぐわかるでしょう。ChatGPTもすぐに正解を出します。進学校の高校生の正答率が65%であったという結果も記載されていました。

「文字は読めるが文章が読めない」は「機能的非識字」といって、世界中で問題になっている。
日本でも民間では問題になっていて、有名な「アレクサンドラ構文」がある。
これ、ちゃんと読めば正解は①だとわかるのだが、実は高校生の正答率65%。しかも自他共に認める進学校でね。

「機能的非識字」が世界中で話題になっているというのは大げさだという気がします。Xでの議論をここで紹介してもよいのですが、議論の参加者の知識と立場が違いすぎて議論になっていないのでここでは紹介しないでおきます。たった1問の回答結果から学術的に結論が出せるわけがないのです。

ちなみに「基礎教育保障学研究 第6号 2022.08」記載の論文「『 日本人の読み書き能力』(1951)における非識字率の再検討」によれば、「日本初の科学的なリテラシー調査は、全国270地点405会場で15 ~ 64歳(数え年)の男女16,820人から、90問から成る読み書き能力テストと、調査員が会場で受付時に行なった聞き取りによってデータが収集され、その後の読み書き能力調査をはじめとして大規模学力調査や計量的社会調査の出発点となった。」そうです。学術的調査はこのようなものです。

少し調べようと思い、「機能的非識字 学術論文」でググってみました。その結果を次に示します。

最初の論文「機能的非識字 読解発達と頭語発達に関する四つの観察」を読んでみました。この論文の最初に日本語で要旨が記載されています。その内容が次です。

アメリカの市内高校では機能的非識字率が高い。国の1998年の発表によると、フィラデルフィアでは90%以上の非識字率を示している。このような場合、読解教育は悲惨なものと考えられる。しかし、読解教育と言語発達が関係していることは1世紀もの間知られている。単に読解の教科書がふさわしい読み物を載せていないだけなのだ。この30年以上もの間、教科書は悪くなる一方であり、ある高校の英語の授業の教科書では、文構造の複雑さが小学校3年生のレベルしかない。学校側や教師が読み物を評価できるような道具は存在している。これを使えば、生徒の能力にあった読み物を与えることができ、生徒の能力が最大限発達するようにしてやれるのだ。

非識字率の高さは読解教育で使用する読み物に問題があると言っています。Alexandra構文も問題のある読み物と言えるのではないでしょうか。

さて、定番ですが、テクニカルコミュニケーターの観点でAlexandra構文を分析してみたいと思います。もう一度上記Alexandra構文を見てください。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名
前Alexandraの愛称であるが、男性の名
Alexanderの愛称でもある。

まず1行目の改行位置が不自然です。意図的に単語「名前」の途中で改行しているとしか思えません。2行目の改行も同じパターンかと思いきや3行目の先頭には「前」がありません。これは読者を惑わすことが目的でしょう。ただし、辞書的には「名」は「名前」なので「名前」の分割が問題なのではありません。「前Alexandra」という風にくっつけて見せることによって「Alexandraの愛称」という結びつきを目立たなくしており、結果的に「AlexはAlexandraの愛称である」というように1行目と2行目を組み合わせて解釈することをやりにくくしているのです。もし、問が「Alexanderの愛称は(  )である。」であったなら正答率は上がったのではないかと思われます。我々も使用説明を作るときには、レイアウト後の改行位置に注意を払わなくてはならないと思います。

もう少し文の意味を考えてみましょう。1行目の読点までの部分ではAlexは女性に使われる名前であり男性に使われる名前でもあるといっています。「愛称」は本名以外の親しみを込めて呼ぶ「名前」です。したがって、この段階ではAlexは「名前」と言っているだけで愛称かどうかはわかりません。この部分は回答のためにはたいして意味を持たない部分です。すなわち削除しても問題がないのです。

1行目の読点以降から2行目の読点までではAlexは女性の名前Alexandraの愛称であるといい、3行目までで男性の名Alexanderの愛称でもあるといっています。すなわち1行目の読点以降があれば回答できるのです。テクニカルコミュニケーター的には、問題文は以下のように書かなければなりません。

Alexは、
女性の名前Alexandraの愛称であるが、
男性の名前Alexanderの愛称でもある。

問:この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまるもっとも最適なものを以下から選べ

Alexandraの愛称は(  )である。

① Alex

② Alexander

③ 男性

④ 女性

つまらない問題になってしまいました。テクニカルコミュニケーター的に正しい文章には、意味を持たない文や読者を惑わせるような文を含めてはなりません。それゆえに、読者に興味を持たせることが簡単ではないということになりそうです。

この記事を書いているときに、「非識字」を扱ったニューヨーク・マガジンの記事に関する書き込みがインターネット上にあったので紹介します。

The big story making rounds today is New York Magazine’s Everyone is cheating their way through college, using GenAI, which concludes, inter alia, and probably correctly that

Massive numbers of students are going to emerge from university with degrees, and into the workforce, who are essentially illiterate…Both in the literal sense and in the sense of being historically illiterate and having no knowledge of their own culture, much less anyone else’s.Massive numbers of students are going to emerge from university with degrees, and into the workforce, who are essentially illiterate…Both in the literal sense and in the sense of being historically illiterate and having no knowledge of their own culture, much less anyone else’s.

(和訳)

今日話題になっているのは、ニューヨーク・マガジンの「誰もがGenAIを使って大学でカンニングをしている」という記事です。この記事は、とりわけ、そしておそらく正しい結論として、次のように言っています。

膨大な数の学生が大学を卒業し、就職することになるだろうと結論づけています。彼らは本質的に非識字です…文字通りの意味でも、歴史的無知で、自国の文化どころか他国の文化についても全く知らないという意味でも。

本質的に非識字なのに、生成AIを使って(レポートを書いて)、多くの学生が卒業しているということのようです。やはり非識字の若者が増えていることが問題だとメディアは言いたいのかもしれません。

徳田直樹 プロフィール

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