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[とくダネ!ナオキ 第4話]リスクって何?

前回までの安規情報でも頻繁に出てくるリスクという言葉ですが、そもそもリスクとは? というテーマで、マニュアル視点におけるリスクという言葉の意味について教えてください。

リスクとは、簡単に言うと確率です。危険の度合いと発生確率を考えます。これはISO/IECガイド51(Safety aspects-Guidelines for their inclusion in standards)に出てくる定義を基にやって行きますが、確率はそんな簡単に出るものではありません。すでに市場に出ている製品ならどういう事故が起きたか、原因は何であったかを詳細に出せますが、新製品における危険の確率なんて出せるはずがありません。

では新製品のリスクはどのように捉えればよいのでしょう?

国内メーカーの担当部門はそれで四苦八苦しているフシがあるのですが、それは確率を基準に測る方法を採るからなんです。リスクアセスメントは必ずしもそうではなく、イチかゼロ、オンかオフで分類していく手法があって、ヨーロッパなどではほとんどその方法を採っています。でないと正しい確率など出せるはずがないのです。確率は実績があって初めてはじき出せるものです。

データがないということは、今でいう機械学習なんて方法もできないわけですよね。

そうです。人間がアナログ的に判断するしか方法はありません。なのに、日本の会社は何故か数値で出したがる傾向があります。確率何パーセント以上だから、以下だからというふうに。

どちらかと言えば欧米の方が数字好きなイメージがありますが。

数値化できるものは数値化すれば良いのですが、今から市場に出るまったく新しい製品についてなど、数値が得られるわけありません。製品のテストをして、どのくらいの確率で壊れるとか、そういう数値は出せます。でも使ったときに、どのくらいの確率で火災が起きるか、なんていう確率は出せるわけがないのです。実際に起こってみないと判らない。人に対しての危険性や、人が使う部分においてはデータがないに等しいのです。その部分は人間がアナログで判断するしかありません。

数値化できる部分と、アナログでしか判断しない部分があって、それを全部数値でやろうとするからうまくいかないのです。そうすると、リスクアセスメントの文書が適正なものになりません。

具体的には、どういうアナログ的な手法を採るのですか?

リスクアセスメントの判断の中で、Rマップとリスクグラフという手法があります。日本のメーカーのほとんどがRマップを使っています。Rマップというのはすべてを確率で出さなければならないんです。 逆に、リスクグラフというのはその危険が大きいか小さいか、という判断をしていくわけです。そういう分岐を繰り返して、危険度を判断していくのです。

新製品の人への危険性判断としては、リスクグラフの方が妥当だと思えますね。

リスクグラフはJISにもなっています。なのにどういうわけか、国内メーカーはRマップを使いたがる。

おそらく、リスクに対する考え方が、日本は古いと思います。ISO9000の新しい考え方だと、不確定性の影響をリスクと定義しています。つまり、結果が想像しにくい事象をどう判断するか、という話です。

その想定からどのくらい乖離するか、ということがリスクです。ですから、想定より高くても低くてもリスクがある、想定どおりにいかないからリスクがある、ということです。

昔の考え方は、安全に対する悪い面しか考えていません。

そうですね、一般にリスクというのは悪い想定に対しての言葉だと思っていました。

広辞苑でリスクという言葉を調べると、危険と書いています。厳密にはそれも違います。リスク=危険ではありません。

リスクを危険だと解釈すると、DANGERはどうするんでしょうか?

極端に言うと、日本の危険という表記には意味がありません。つまり、危険という文字を読んで、人は何を想像すると思いますか? エスカレーターにも危険って書いてますね、ハイヒールで乗らないでくださいと。でも女性は平気で乗っているでしょ。

英語の感覚のDANGERだと、死ぬかもしれないということですから、DANGERと書いているとエスカレーターに乗ることは怖くてできません。でも日本では危険と書いてあっても平気でやります。

確かに、安全のラベルとかでもそうですね。

危険と言う言葉はDANGERと等価ではないんです。

では、国内製品の危険、警告、注意というのを、そのままDANGER、WARNING、CAUTIONに当てはめるのは、そもそも齟齬がでているということでしょうか?

そうです。定義に当てはまっていません。確率を考えずに、危険度の大きさだけ考えているからです。死ぬかもしれない場合、必ず危険なんです。

それはJISに定められていないのですか?

定められています。ただし、定められているとおりには使われていません。一般に使われているのは、リスクという意味での危険が使われているんです。街中で見かける危険は、リスクあるぞって言っているだけなんです。

英語圏でDANGERと言えば、かなりの確率で死ぬ危険があるぞって言ってるのです。

ですが国内の場合、危険という言葉のニュアンスが一般の人にとってたいした意味がないのです。注意しなさいよ、という程度の意味にしか使われていません。

そうしますと、これらの用語も改めて定義付け、あるいは再定義する必要があると思いますね。 その辺りは、次回規格についてお話をお聞きしたいと思います。

徳田直樹 プロフィール