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[とくダネ!ナオキ 第75話]気になる表現

最近、テレビを見ているときによく聞く気になる表現があります。こんなことが気になるなんて「歳を取ったのかなぁ」と思うのですが、言わなきゃいけないと思い、ここで紹介します。それは、

~が公開します

という表現です。

公開するという表現は、私の感覚では、物(美術品や発掘品など)や情報(個人情報など)を広く一般の人が見られるようにするときに使います。しかし「~が公開します」という表現には違和感を覚えます。

確かに違和感がありますね。

「公開する」という動詞は動作の対象を必要とする他動詞です。「○○が~を公開します」という言い方であれば問題ありません。「が」という助詞は、この場合はその前の語が主語であることを表す格助詞です。
したがって、この場合には~が公開の主体であると解釈するのが自然です。ところが、最近は「~が公開します」という表現では~が公開の対象として扱われています。この傾向は私には受け入れにくいのです。対象である場合は「~が公開されます」と受け身にすべきです。

正しい日本語というコトですね。

具体的な例としては、俳優がプロモーションのためにバラエティー番組などに出演して「私が出演する映画が明日から公開します」と言うのをよく聞きます。また、アーティストによる「私たちのコンサートツアーが公開します」のような使われ方も聞いたことがあります。
コンサートツアーは公開の対象かどうかは議論の余地があるように思いますが、テレビで話すこと自体公開することだからいいのかもしれません。言葉は変化するものだから、そのうち辞書にも使い方の例として記載されることを想像するとなんとも言えない気持ちになります。

似たようなことだと思いますが、私もこの仕事をするようになってから、意識して「ら抜き」言葉にならないよう心掛けているつもりですが、テレビのMCが平気でそれを言っていることをよく見かけます。

そうですね。私もかなり前から気になっています。

昨日も、超大盛のどんぶりをタレントが平らげてみせる番組で、司会者が「このどんぶりを10分以内に食べれますか?」などと使っています。ここは「食べられますか?」というのが正しいのですが、このような「ら抜き」表現はよく聞きますね。

確かに時代とともに言語は変遷し、方言でら抜きがあるのも理解しますが、あくまでも標準日本語でやっているなら司会者だけでなく出演者もやっちゃダメだと思いますね。

ビジネスの世界でも、「明日10時に会社を出れますか」などとメールに書いてしまうことはないでしょうか。これも「出られますか」と書くのが今の日本語では正しいとされています。

中学生のとき、国語の先生が「食べれる、出れる、そんな日本語ない。」と口癖のように言っていたことをよく覚えています。(笑)

これらは、文法的には動詞の未然形に可能の助動詞(「れる」と「られる」)をつけたものです。
ここで厄介なのは「れる」と「られる」は可能の意味で使われるだけではないことです。
「受け身」、「自発」および「尊敬」の意味でも使われるのです。

聞いた人がどういう意味で使われたかを判断できるかどうかも、話す人が考慮しなければなりません。
たとえば「食べられますか」の場合、「どのどんぶりを食べられますか」と言えば尊敬の意味に解釈されることが多いでしょうし、「このどんぶりを食べれますか」と言えば可能の意味に解釈されることが多くなるでしょう。でも異なる解釈をする人もいます。

なるほど。敬語としては「召し上がられますか」が正解だと思いますが、ら抜きだと「召し上がれますか」となりますね。

「召し上がられますか」は二重敬語となり不適切です。この場合は「召し上がりますか」で良いですね。

なんとも日本語は複雑ですね。

また、「出られますか」の場合、上司に対するメールだと尊敬の意味だと受け取られる可能性が高くなります。
上司に対して「出れますか」は使えないので「出ることができますか」などと表現したほうが良いかもしれません。このようにいろいろ考慮するのが面倒なので、「れる」を可能の意味に、「られる」を尊敬や受け身の意味に決め打ちにして使われるケースも多いような気がします。

受け手がどう解釈するかを正確に知ることは不可能です。別の表現ができるなら、「れる」や「られる」は使わないほうがいいと思います。特に取説などの使用情報では、誤解されるのを防ぐためにも、できるだけ「れる」や「られる」は使わないようにしたいです。

確かに、「食べれますか?」と「食べられますか?」では微妙にニュアンスが異なってきますね。

看板や表示などの文字情報にも気になるものが街で見かけられます。いくつかの例を紹介します。

まず、街で見かけた日本語の使い方が気になる看板を紹介します。

スーパードライの看板

コインランドリーですか? かなりユニークな看板ですね。

これは数年前の旅行中にとある都市で見つけた看板です。2000年代前半にイギリス人によって作られたファッションブランド店の看板です。このブランドの衣料製品は日本でも販売されているので、ご存じの方も多いと思います。

私は知りませんでした。イギリスのファッションブランドですか…。

そうです。でも初めて見たときは笑ってしまいました。ネット情報によれば最初は「スーパードライ」とカタカナにしたかったけれど商標登録されていたのでアルファベットにして、それでも日本語を使いたかったのでこのようになったとのことです。

このブランドのTシャツにはロゴがこのままプリントされています。日本でよく見かけるおかしな英語がプリントされたTシャツの逆パターンです。

「一番」とプリントされたTシャツを思い出しました。(笑)

次は、私が意味を理解できなかった日本のネイルサロンの看板です。

ネイルサロンの看板

またバランスが悪い…。

私にはFree nailの意味が分かりませんでした。無料(free)なわけはありませんよね。ネットで調べると「何回でも!やり放題!」と書いてあるサイトがありました。この看板があった店ではなく別の店のWebサイトです。ということはこの使い方、ネイルサロン業界では一般的ということでしょうか。
ネイルサロンに縁のない私にはわかりません。

外国人観光客が無料だと思って入っても不思議じゃないですね。

次はTC的には強調の失敗例といえる、ちょっと衝撃的な表示です。一時期タレントのスキャンダルで話題になった個室タイプではない、ごく一般的な公衆トイレの入り口にある表示です。

公衆トイレの標示

「×××や〇〇〇を禁止します。」と書いてあるのですが、×××と〇〇〇を強調するために文字サイズを大きくして、さらに上に傍点を付けたために「や」が小書きに見え、ぱっと見で「りゃ」と読めてしまいます。目に入ったとき一瞬首をかしげてしまいました。

「ゃ」を中黒にすれば問題なかったのに・・

次は、昨年の暮れにとあるコンビニで見かけた表示です。

コンビニで見かけた表示

「キャンペーンは対象外です」は、わかるようでわからない表現です。近くの他の店に貼ってあった東京都が作ったポスターが次です。

もっと!暮らしを応援 TOKYO元気キャンペーン

これを読むと、このキャンペーンは対象店舗で指定のQRコード決済をするとポイントが還元されるというものだとわかります。さらに、このポスターが貼ってある店はキャンペーンの対象店であることもわかります。とすれば、前記コンビニのお知らせはせめて次のようにしてほしかったと思います。

コンビニのお知らせの改良

我々テクニカルコミュニケーターも「てにをは」には気を付けたいですね。

「当店は」という主格があるだけでも違いますね。

次は、気になる表現がいくつか使われている、とある商業施設内の表示です。

商業施設内の表示

私が気になったのは「下記の行為は禁止されています」という受け身表現です。最後に「管理者」と書いてあるので、ここは「下記の行為を禁止します。」というのが言いたかった表現だと思えます。しかし、施設の管理者としては、大切なお客様が目にするものなので命令形では書きづらかったのでしょう。

そこで受け身表現で印象を和らげようとしたのだと思うのですが、これだと誰がこれらの行為を禁止しているのかという疑問が生じます。禁止する主体を書かないのは少々無責任にも思えます。

これも日本語の妙ですね。個人的には8番目の虞(おそれ)の字を使っているのが気になります。(笑)

実は、このような「禁止されています」という受け身表現はよく使われています。読者の皆さんにも心当たりはあると思います。公共交通機関でよく見られる「危険物の持ち込みは禁止されています」という表示はそのひとつです。

やはり前述と同様に主語がないことも原因ですね。

受け身表現以外に気になったことが2つあります。大きな問題ではないのですが、1つ目は行頭文字に数字を使っていることです。行頭文字に数字を使うと順序や重要度を表すと解釈される可能性があります。制作者は一般的な中黒(・)では目立たないと思ったのかもしれません。その場合は大きめの黒四角(■)を使ってもよかったのではないでしょうか。2つ目は項目の最後に句点が付いていることです。各箇条は文ではないので句点は付けません。

最後は私が読めなかったビル名の表示です。読者の皆さんは読めますか?

リップル9

狙った感満載ですが、サッパリ読めませんね。

私は最初すべてアルファベットの大文字だと考えました。そうすると最後の文字が読めません。最後の文字はQの小文字に見えます。しかし、1文字だけ小文字にするのは不自然です。実は、正解はこの文字列の下にカタカナで小さく書かれていました。「リップル9」と!これはかなり無理筋だと思います。

キュー(q)と九(9)を掛けたのでしょうか…。

デザイン的にはPと線対象になっているので、デザイナーあるいはビルのオーナーにこだわりがあったのかもしれません。しかしこのように並べられると、私には最後の文字を数字と解釈することはできません。
デザイン優先で情報が伝わりにくくなった例です。

ちょっととりとめもなかったですが、今回はこれで終わりです。

やはり伝わらないと意味がない、というのは永遠のテーマですね。

徳田直樹 プロフィール