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[とくダネ!ナオキ 第68話]とんでもマニュアルオブザイヤー !?

読者からとんでもないマニュアルが持ち込まれました。
ネット通販で買った時計についていたというA4シートのマニュアルです。それが次です。

置時計のマニュアル
置時計のマニュアル

ぱっと見て項目の番号が漢数字なのはなかなか斬新なマニュアルです。(笑)

このマニュアルには国際規格IEC/IEEE 82079-1が要求する重要なコンテンツが記載されていません。
この規格が要求する主なコンテンツは以下の通りです。

  • 識別子
  • 製品の説明
  • 対象製品の耐用期間中に必要な使用情報(操作、保守、廃棄、仕様など)
  • 安全に関する情報

これは要求のほんの一部です。すべてではないので注意してください。

レベル1の要求事項ということですね。

そうですね。先日開催されたTCシンポジウムのジャパンマニュアルアワードの審査でも、これらの要求事項が重要視されます。そして、最も優秀なマニュアルがMOY(マニュアルオブザイヤー)に選ばれます。

[ジャパンマニュアルアワードとは]

ではこのマニュアルがその要求事項を満たしているかどうか確認してみましょう。

まず、識別情報ですが、これがほとんど記載されていません。国際規格は識別情報として次の情報の記載を要求しています。

  1. 使用情報の識別情報
  2. 対象製品の識別情報
  3. 供給者の識別情報

「使用情報の識別情報」とは何を指すのでしょう?あらためて教えてください。

このシートが使用情報であることをユーザーが認識するための情報です。一般的には「取扱説明書」や「操作説明書」などのタイトルのことです。

確かに冒頭からありませんね。

ですから仮にシートと言うしかないのです。

さらに、これが説明書である場合、メーカーが管理するために用いる識別番号と発効日も書かなければなりません。このシートにはこれらの情報は一切書かれていません。

シートを見ると説明書だと理解できるだろうと記載を省略しているのかも知れませんが、以前のハナシでも『法的な側面から、常識の範囲というのは許されない。必ず明記する必要がある』ということでしたね。
[第17話]マニュアルの本質とグローバル化

そうです。製品のケースにはこのシートしか入っていないので、読み手はこれが取扱説明書だと考えるでしょうが、識別子が無いというのはダメなのです。

では「対象製品の識別情報」ですが、いきなり《目覚まし時計》というタイトルがありますがこれが該当しますか?

対象製品の識別情報とは、製品の名称やモデル名など説明の対象となっている製品を読み手が識別するための情報です。

一般名称である「目覚まし時計」、モデル名らしき「木目調電波モデル」は記載されていますが、製品本体にそれらの情報の記載がないため識別情報としては不十分です。

「供給者の識別情報」とは対象製品を供給するメーカーの名称、住所、電話番号やメールアドレスなど詳細な連絡先の情報です。このマニュアルには、それらしき情報は書かれていません。何か事故があっても供給者がわからなければ連絡することができません。おそらく意図的に記載していないと思われます。これはマニュアルとしては致命的な欠陥です。

確かに保証書どころか問い合わせ先も書かれていませんね。

製品の説明は、形式的には書かれています。2つのイラストと「一.概要」、さらに「七.電波受信方法」の内容の一部がそうです。少し読んでみましょう。

置時計のマニュアル

ホントになかなかの日本語です(笑)、読む気にもならないです。

それに、まったく説明がありません。国際規格にはイラストは説明文で捕捉することが望ましいと記載されています。「望ましい」なので強制ではありませんが、説明が全くなければ表示の意味が理解できないので製品の説明としては使い物になりません。

解読形の新しいトリセツなのかも知れません。ここまでくると吹き出しますね。

もう少し突っ込んでみましょう。《Zz》は何を表しているのか想像できますか?

私はいびきを表していると思ったのでスヌーズに関係するのかなとまでは想像しました。でも、説明文を全部読んでも正解は得られませんでした。さらに、一部の数字の左上にある点の意味もわかりません。

「一.概要」を読むと、ディスプレイには、日付、時間、温度、湿度が同一画面表示されることになっています。同一画面という表現が微妙ですが、これらの情報が同時に表示されるように思えます。
左の大きな数値表示は時間、右上は湿度、右下は温度ということは推測できます。右下のLED左上の点は°になるのでしょう。

さて日付はどこに表示されるのでしょうか。「六.日付と時刻の設定」を読んでも表示される場所はわかりません。「五.表示モードの設定」を読みましたが理解不能です。

置時計のマニュアル

この見出しだけ最後に「です」が付いています。表現に一貫性がありません。一貫性は国際規格の要求事項です。

この辺りからハチャメチャですね。

この問題に関しては、インターネット上にわかりやすい情報が見つかりました。それが次です。

ネット上の置時計の画面

一目瞭然です。日付を表示するときは、温度と月日が交互に右下に表示されるのです。これを読まなくても時刻と年の交互表示は予測可能です。しかし、温度と月日は関連性がないので、こればかりは予測が難しいと思います。このシートマニュアルが使い物にならないことはこのことからもわかります。

やはりネットで販売されている製品なのですね。どこの国の製品かは想像に易いです。

次に背面のイラストを見てみましょう。これを見てもいろいろ疑問がわいてきます。

置時計のマニュアルの各部の説明

UPボタンとDOWNボタンの説明がわかりません。似た機能を持つボタンの説明の表現が異なります。
UPボタンは“/”をセパレーターとして使っています。DOWNボタンの説明のセパレーターは改行と読点です。これも一貫性がありません。

めまいがする日本語です。

表現の問題ではありませんが、電池収納部のカバーに書かれた説明を読むと頭に疑問符の連なりがわいてきます。

記憶用電池に単4乾電池2本ということはどんなに電力消費が大きいメモリーを使っているのだろうと最初は考えました。一般的にパソコンのマザーボードの設定記憶用の電池はCR2032などのボタン電池です。

CMOS(シーモス)と呼んでいる電池ですね。私もパソコンで過去1度だけ交換したことがあります。

一般的なCR2032の容量は220mAhです。これで3~4年持つといわれています。アクセスが面倒なところに取り付けられていますが、マザーボードの寿命が3~5年と言われているので電池を交換することはほぼありません。ところが、この時計の記憶用電池は単4乾電池が2本で交換しやすいようになっています。

一般的なアルカリ単4電池の容量は600~900mAhです。これで電池交換が必要になる可能性があるということは設定記憶に何を使っているのか疑問に思ってしまいます。

製品自体に対する疑問はまだあります。ACアダプターをつなぎっぱなしにしておかなければ動作しないのです。これは使用する場所がコンセントの近くに制限されるということです。魅力的ではないです。

その端子はUSB Type-Cなのですね。

そうです。

次に本文についてです。まず、注意事項の記載位置が適切ではありません。ここに書かれた情報は国際規格では安全表記と言われる情報です。安全表記は使用情報の冒頭の個別の節又は項に示さなければならないというのが国際規格の要求事項です。このマニュアルの記載位置は冒頭ではありません。

次に内容に関する問題です。注意事項の最初の文は「本商品の最大電圧はDC5Vとなります。これ以上の電圧を使わないでください。」です。ところが製品背面のイラストには「DC9V 2A」と記載されています。

さらに、概要には「DC5.0V電源供給(TYPE-C)」と書かれているのです。TYPE-Cは5Vも9Vも供給可能です。どの表示が正しいのか判断できません。安全情報としては失格です。

なんだか燃えだしそうな気がします。NITEの事故に載らなければよいのですが・・

本文の文字は日本語フォントと簡体フォントが混在しています。たとえば「時計」です。タイトルには日本語フォントが使われていますが、裏面の2行目には「时计」という簡体フォントが使われています。日本語の時計を中国語では时计とは言わないのでこれは日本語の時計を簡体フォントで印刷しただけです。

置時計のマニュアル

フォントの混在だけではありません。日本語として表現がおかしいので説明文がほぼすべて理解できません。説明が書かれているのにインターネットの情報に頼らざるを得ないのは製品付属のマニュアルとしては失格です。

「八、アラームの設定」は秀逸です。
《ア ラーム2が表示され》、《AL2ミAL3は同様の》、《ァラームの消し方》、《SNOOZEを 押したら、ススースに入り、画面にす。》、《スヌーズはずっさ繰り返します。》(笑笑)
この説明書には、TMOY(とんでもないマニュアルオブザイヤー)を贈呈しないといけませんね。

確かに今までに見たマニュアルの中で最も酷いものの1つです。

目を覚ますのはユーザーではなく製造メーカーの方でしたね。
ちなみに、《ずっさ(らし)繰り返す》というのは、薩摩弁でだらしなく繰り返す、という意味だそうで、よくできたハナシです。

徳田直樹 プロフィール