1. HOME
  2. パセイジ通信
  3. とくダネ!ナオキ
  4. [とくダネ!ナオキ 第67話(コラム)]職業病?

パセイジ通信

とくダネ!ナオキ
とくダネ!ナオキ

[とくダネ!ナオキ 第67話(コラム)]職業病?

通勤の車内で気になる広告を見つけた。

花王株式会社による社内ポスター1

花王株式会社による社内ポスター1

私は「せつない水の物語」という表現に気を取られた。
これ自体は優れたコピーだと思う。しかし、私は、このようなコピーを見るとついつい分析してしまう。

どういう風に考えたのかは

「せつない」は形容詞、修飾しているのは「水」かな「物語」かな?

いや、「水」はありえない。水は物質なので「せつない水」は考えられない。

となると「物語」が修飾される語だ。

「せつない物語」は読者をせつなくさせる物語ということだから問題ない。

となると、この表現はテクニカルライティングの観点からはわかりにくい。

どうすればよいか。

TC協会が発行する日本語スタイルガイドには「修飾語は修飾する語句に近づける」と書かれている。

とすれば「水のせつない物語」のほうがよい。

でも改行位置が不自然になる。

さらに「の」の意味があいまいだ。

正確に説明するためには

水に関する
せつない物語

のほうがよいのではないか。

このように考える自分は、感性を重んじるコピーライティングの世界とはつくづく縁のない仕事をしているのだなと思う。
これはもう職業病だ。

「水に関するせつない物語」などというコピーがよいとは誰も思わないと思う。
「関する」はコピー向きの表現ではないし、「せつない」とは相性が良くない。元の表現のほうが断然いい。
取扱説明書がユーザーの皆さんに読んでいただけない原因の一つは、私が考えたような表現を多用していることにあるのかもしれない。

ところが翌日どんでん返し。
電車の反対側に次のポスターを見つけてしまった。

花王株式会社による社内ポスター2

花王株式会社による社内ポスター2

あきらかに「せつない」は「水」を修飾している。
最初のポスターの水滴に、目、鼻、口が描かれていることに気が付いていれば、水が擬人化されていることがわかり、明後日を向いた発想はしなかったと思う。
まことに恥ずかしい独り相撲である。

徳田直樹 プロフィール