[とくダネ!ナオキ 第64話]ピクトグラムあれこれ
先ごろ行われたパリオリンピックで使われたピクトグラムについて、インターネット上では賛否両論でした。たとえば柔道のピクトグラムが次です。
なんだか良いのか悪いのかわからないピクトグラムですね。
東京2020(2021年)の柔道のピクトグラムが次です。
これはまだ記憶に新しいですね。断然こちらの方が馴染みやすいと個人的には思います。
インターネットで見つけた解説によるとフランスのピクトグラムは左右対称の紋章型デザインで美しさや優雅さを意識しているのだそうです。
紋章ですか。それはまた西洋らしいですね。
フランスのピクトグラムは、時間をかけてじっくり見るまでは下の黒い部分が、上の柔道着を180度回転したものだと気が付きませんでした。色が反転しているので柔道着であることがすぐにはわからなかったのです。
日本のピクトグラムは柔道の投げ技を表していることが一目で分かりました。デザインの美しさではフランスのほうが良いのかもしれませんが、ピクトグラムの目的を考えると、伝えたいことがすぐに分かる日本のものが優れていると思います。これは、あくまで個人的な感想です。
同意します。ピクトグラムは伝えるというコトが第一だと思いますし。
ピクトグラムといえばトイレのピクトグラムは誰にとっても重要です。JIS Z 8210では次のようなピクトグラムを規定しています。
色を付けるときは男性が青、女性が赤であることが多いようです。
男性が黒という例も多く見受けられます。
これは一番なじみ深いピクトグラムではないでしょうか。一目でわかりますね。
私が行ったことのある海外の空港や公共施設でも、ほぼ例外なく同じようなピクトグラムが使われていて、迷うことはありませんでした。ところが京都では様子が違うようなのです。トイレの場所を示す次のようなピクトグラムがあるのです。
京都らしい、と言えばそうですが。
このピクトグラムはお雛様の立ち姿に見えます。男性は束帯(そくたい)、女性は十二単(じゅうにひとえ)を着ているのでしょう。インターネットの書き込みを見る限り、京都にはいろいろなバリエーションがあるようです。たとえば次です。
日本人には評判が良いようですが、このようなバリエーションは外国人にはどう見えるのでしょう。
ドレスコードが着物とか?(笑)
色が付いていれば外国人にも男女の区別はつくでしょう。上のようにモノクロだと理解できない人がいるかもしれません。そこで、先に紹介したモノクロピクトグラムのトイレに行って確認したところ次のようでした。
入口のピクトグラムはこの写真ではわかりにくいですが、男性が青、女性が赤のカラーバージョンでした。結果的には問題はなかったのです。
私も次にこのような話題が出た時のために撮っていた写真があります。広島駅の商業施設の喫煙ルームです。カオスですよね?
ホントに カオスですね。一番上のピクトグラムと2段目左のピクトグラムが全く逆の意味になっています。
一番上のピクトグラムはここが喫煙可であることを表し、2段目左のピクトグラムはここが禁煙であることを表します。
2段目右の円で囲んだテキストは1文に日本語と英語が混在しています。
また、ここはテキストだけのほうが読みやすいのになぜか円で囲んでいます。一番上のピクトグラムと対にしたかったのかもしれませんが、配置に無理があります。
この場所を利用可能な時間帯とその下の4か国語のテキストは、一番上のピクトグラムと組み合わせて読んでもらいたいテキストです。このように離してしまっては伝わりやすさの面からはよくありません。
一番下のテキスト左のピクトグラムは、円内の斜線の傾きが禁止図記号とは逆です。こんなピクトグラムは規格にはありません。
右のテキスト「紙巻たばこのお客様はご遠慮ください」から推測すると禁止の意味で使っているようです。このような間違いは他の場所でも時々見かけます。円に斜線という禁止のピクトグラムはNGのNの文字をデザイン化したものだと記憶しておきましょう。そうすれば、Nの斜線を思い出せば斜線の向きに迷うことはなくなります。
右下のピクトグラムは、私個人には、すぐには意味が分かりませんでした。20の上の文字はUNDERです。一見、駆け込み禁止かと思いましたが、20歳未満は立ち入れないことを表しているらしいです。調べてみると厚労省の資料(健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号) 概要)にこれが見つかりました。
これだと全体を読めば意味は分かりますね。
「20歳未満の方は立ち入れません」というテキストをピクトグラムの直下に配置するともっと伝わりやすくなります。先の例の一番上のピクトグラムは、この例のように青い角R四角にするべきでしたね。そのほうが伝わると思います。
喫煙ルームの2段目左の禁煙のピクトグラムは不要ですね。その代わりにそこにUNDER 20のピクトグラムを移動すればよいと思います。
確かに。喫煙ルームの中は見えないようになっていましたので、扉のカオスを凝視していた外国人を記憶しています。
話は変わりますが、先日、新宿駅西口の地下通路で外国人男性に道を聞かれました。彼はスマホの画面を私に見せながら「これに乗りたいのだがどう行けばよいか」と聞いてきたのです。
彼の指が示す先にはYamanote Lineと書いてありました。彼が見せてくれたものとは違うアプリですが、次のような画面を見せてくれたと考えてください。
今は乗換案内とグーグルマップがあれば路頭に迷うことはありませんね。
これは私が利用しているCitymapperという乗換案内アプリの画面で、世界中の大都市で使える便利なものです。これは日本語表示になっていますが、私の設定が日本語だからであって使う人によって言語は異なります。
私に尋ねかけた彼は山手線に乗ればよいことはわかっているのに、どちらへ向かって進めばよいのかわからなかったのです。私は付近の案内表示を探しました。案内表示はすぐに見つかりました。
しかし、JR Lines と書かれているだけでYamanote Lineはどこにも書かれていません。新宿駅を通るすべての路線を表示するスペースがないのでJR線(JR lines)でまとめたのだと思われます。
東京に住んでいてよく電車を使う人であればこれでも分かるでしょう。しかし日本人であっても東京の鉄道になじみがなければ、JR線(JR Lines)の表示に従って行けば山手線(Yamanote Line)にたどり着くとは思わないでしょう。
大阪でもJRと環状線(Loop Line)は同様ですね。
私は案内表示を指さしながら、Yamanote LineはJR Linesの1つなので、JR Linesの表示に従って進むようにと教えました。
さて、ここからがこの話題のキモです。実は表示に従ってJR線の改札近くまで行くと次のような表示があるのです。
最初の表示と同じですが・・・?
写真の左下に注目してください。部分を拡大したのがこれです。
改札の案内表示に、改札を入って利用できるJR線がすべてピクトグラムで表示されているのです。
最初に示したアプリの画面をもう一度見てください。Yamanote Lineの横にのピクトグラムが表示されています。これから考えるに、すべての案内表示に5個のピクトグラムを追加するだけで道を聞かなくても目的地にたどり着ける人はかなり増えるのではないかと思うのです。
ピクトグラムは今や世界中で使われています。外国人にも馴染みはあると思います。
たとえばフランスのある都市のトラムの停留所の表示がコレです。
Ⓣはトラム、ⒶとⒷは路線を表すピクトグラムです。
Hôtel de Villeの左のⓉⒷはトラムB線にHôtel de Ville停留所で乗換可能であることを表し、その横のピクトグラムは観光スポットの塔があることを表しています。それなりの情報がピクトグラムで示されています。
新宿西口の案内表示も、[JR Lines]の横に5個のピクトグラムを追加するだけで助かる人は多くなるに違いないのです。スペースは十分にあるように見えます。たとえば、次のようにすればよいのです。
そうですね。こういう案内を作る場合はどうすれば日本人だけでなく外国人にも伝わるのか、全力で考える必要がありますね。
自分の仕事を振り返ると京都のお雛様のピクトグラムやJR線の表示と同じことを取扱説明書でもやった可能性があります。自分が分かるのだから読者も分かるという思い込みで説明を書いているかもしれません。とくダネの読者の皆さんも一度、ご自分が作られた取扱説明書をこの視点でチェックされてみてはいかがでしょうか。
とカッコイイこと言ったつもりになったところで気が付きました。このトピックで自分がしでかしてました。
喫煙専用室標識のところで「角R四角」(かどあーるしかく)という用語を使っています。
これは「角を丸めた四角」などとすべきでした。
この業界のヒト以外は馴染みがないかも知れませんね。ありがとうございました。