[とくダネ!ナオキ 第37話]USB Type-Cと無線機器指令
今年(2022年)の春から夏にかけてiPhoneがUSB Type-Cレセプタクル(以下Type-C)を採用するかどうかが話題になりました。結局iPhone 14はType-Cを採用しませんでした。もし採用していたら今使っているiPhone 12を買い換えていたと思います。
Type-Cになるかどうかが買い換え判断になったということですね?
そうです。手持ちのポータブル機器のほとんどがすでにType-Cを装備してますから、iPhoneがそれを装備すればノートPCやiPad mini、iPhoneはすべてノートPCから充電できますから、複数のケーブルを持ち歩かなくてもよくなると考えたからです。
同感です。出張や外出時はモバイル機器の充電に気を配りますからね。
私がなぜiPhone 14にType-Cが採用されるかもしれないと期待したのか、理由は昨年の秋に遡ります。
欧州委員会が2021年9月23日に、スマートフォンなどの携帯用電子機器の充電関連規格を統一する無線機器指令(2014/53/EU)の改正案を発表しました。これによればType-CとUSB Power Delivery(以下USB PD)が統一規格になるということでした。
その発表はよく覚えています。私もスマホを含めて徐々にType-Cになっていってますが、Bluetooth機器や家電製品系のポートはいまだにMicro-BやMini-Bがあります。外出時にそのケーブルがないというのはざらですし、それらのケーブルをかき集めたら20本以上あると思いますからうんざりです。 iPhoneやiPadユーザーはlightningがありますから、現状少なくとも4種類以上ケーブルを使い分けていますよね。
無線機器指令が改正されればAppleも欧州で販売する製品に関してはそれを守らなければいけませんから、iPhone 14からType-Cが採用されると期待したのです。
しかし、欧州議会の動きが遅かったこともあり、部品調達の関係などでAppleは秋発売のiPhoneの充電用レセプタクルがlightningのままになったと思います。iPhoneにおけるType-Cの採用は2023年発売の製品からになるそうです。
レセプタクルと言うのはいわゆるメス側のインターフェイスということですよね? 先日、EOSミラーレスカメラを購入したのですが、これにType-Cが搭載されていました。つまりバッテリー充電器を持ち運ぶ必要がないのです。こうなると便利ですよね。
便利さというのはそういうことですよね。
ただ、Type-Cは統合規格ですからケーブルにより対応するしないがありますね。前述のカメラはUSB PDに対応したケーブルと60 W以上給電できる電源アダプター(USB PD充電器)が要ります。
そうですね。ノートPC自体を充電するときも低電力では充電に時間がかかります。ですから、ホテルや交通機関の座席にあるUSBポートでは充電できませんね。それにそもそものUSB規格やThunderboltなど、今度はケーブルに関する知識が必要です。
ただ、USB充電器は比較的小型ですし、ポータブル機器すべてまかなえればずいぶんコンパクトになります。
さて、ここにきて欧州で無線機器指令に関連する動きがありました。2022年10月4日に、欧州議会で無線機器指令の電子機器用共通充電器に関する提案が立法決議されました。決議内容の中で重要と思われる部分を紹介しましょう。
改正案で私が注目するのは第3条が変更され第3a条が追加されたことです。第3条の改正で附属書1aが追加され、そこで適用される無線機器が規定されました。また、使用する充電装置はUSB PDに準拠しなければならないことも規定されました。附属書1aはこのような内容です。
附属書 1a
特定のカテゴリ又はクラスの無線機器に適用される
充電に関する仕様及び情報
第Ⅰ部
充電能力に関する仕様
1. 本編の第2項及び第3項に規定する要件は,次の無線機器のカテゴリ又はクラスに適用されるものとする。
- 1.1. 携帯型携帯電話機(handheld mobile phones)
- 1.2. タブレット端末(tablets)
- 1.3. デジタルカメラ(digital cameras)
- 1.4. ヘッドホン(headphones)
- 1.5. ヘッドセット(headsets)
- 1.6. 携帯型ビデオゲームコンソール(handheld videogame consoles)
- 1.7. ポータブルスピーカー(portable speakers)
- 1.8. 電子書籍端末(e-readers)
- 1.9. キーボード(keyboards)
- 1.10. マウス(mice)
- 1.11. ポータブルナビゲーションシステム(portable navigation systems)
- 1.12. イヤホン(earbuds)
- 1.13. ノートパソコン(laptops)
2. 有線充電による充電が可能な限りにおいて、本編1項で言及された無線機器のカテゴリ又はクラスは、以下のとおりとする。
2.1. EN IEC 62680-1-3:2021「データ及び電力用ユニバーサルシリアルバスインターフェース – パート1-3:共通コンポーネント-Type-C® ケーブル及びコネクタ仕様」に記載された Type-Cを装備し、そのレセプタクルには常にアクセスでき動作可能でなければな らないこと。
2.2. EN IEC 62680-1-3:2021「データ及び電力用ユニバーサルシリアルバスインターフェース – パート 1-3:共通コンポーネント-Type-C® ケーブルとコネクタ仕様」に準拠したケーブルで充電可能であること。
3. 5Vを超える電圧、3Aを超える電流又は15Wを超える電力による有線充電が可能である限り、本編1項で言及された無線機器のカテゴリ又はクラスは、以下の通りであること。
3.1. EN IEC 62680-1-2:2021「データ及び電力用ユニバーサルシリアルバスインターフェース – パート1-2 共通部品 – USB Power Delivery 仕様」に記載されるUSB PD技術を組み込んでいること。
3.2. 追加充電プロトコルは、使用される充電装置に関係なく、3.1.で言及される USB Power Delivery の完全な機能性を可能にすることを確保すること。
追加された第3a条では、無線機器の販売時に充電器付きと充電器なしのオプションがユーザーに提供されなければならないことが規定されました。すなわちユーザーは購入時に充電器付きか充電器なしを選べるようになるということです。また、充電器が付属しているかどうかを次のピクトグラムでパッケージなどに表示することが事業者に対して義務付けられました。
- ピクトグラムは、視認性と可読性を維持する限り、その外観(例:色、立体か中空か、線の太さなど)を変えてもよい。ピクトグラムが縮小または拡大された場合、本編1項の図面に記載された比率を維持すること。本編第 1 項でいう a の寸法は、変形にかかわらず 7mm 以上でなければならない。
また、USB PD準拠を示すために、取扱説明書と包装材に次のラベルを印刷または貼り付けしなければならないと規定されました。
- XX “の文字は、無線機器が充電するために必要な最小電力に対応する数字に置き換えられ、充電装置が無線機器を充電するために供給する必要がある最小の電力を決定するものとする。YY “の文字は、無線機器が最大充電速度を達成するために必要な最大電力に対応する数字に置き換えられ、その最大充電速度を達成するために充電装置が最低限供給する必要がある電力を決定するものとする。無線機器が充電通信プロトコルに対応している場合は、”USB PD” (USB Power Delivery)の略語を表示すること。”USB PD” は、電池寿命を短くすることなく、充電装置から無線機器へ最速の電流供給を交渉するプロトコルである。
- ラベルは、視認性と可読性を維持する限り、外観(例:色、立体または中空、線の太さなど)を変えてもよい。ラベルが縮小または拡大された場合、本編 1 項の図面に記載された比率を維持するものとする。本編第 1 項で言及する寸法「a」は、変動にかかわらず 7mm 以上でなければならない 。
対象製品を製造しているメーカーにはやらなければならないことが増えますが、ユーザーには親切な指令と言えるでしょう。
充電器の有無をユーザーが選択できるということでしたらいいことだと思いますね。
2022年12月8日に以下を追記しました。
EU無線機器指令の修正案が正式に2022年12月7日付でDirective (EU) 2022/2380として公布されました。次のサイトから全文ダウンロードできます。
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32022L2380