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[とくダネ!ナオキ 第27話]伝えるって何?

今回は伝えるがテーマということですね?

そうです。京王線の社内でおもしろい安全表示を見つけました。

京王線の車内の安全表示ラベル

『手すりに手を入れないで下さい』とありますが?

車両の端の車いすスペースの窓に貼られた横20 cmくらいの表示ですね。これを見て心に何かが引っかかりました。一般注意記号があるので乗客に注意して欲しいことを書きたかったとは思いますが、右のイラストが何を伝えようとしているのかが今ひとつピンときません。

小さな文字で「手すりに手を入れないで下さい。」と書いてあるのに、イラストは手すりに手を入れた状態に見えます。テキストで禁止している行為をイラストでは許しています。禁止するならせめて次のようにイラストに赤の斜線を追加すべきです。

京王線の車内の安全表示ラベル(斜線追加)

なるほど。こうしないと注意か指示か一目でわかりませんね。

でもこれでいいのでしょうか?そもそも手を入れなければ手すりを持つことはできません。持つことのできない手すりは無用の長物です。なぜ手を入れることを禁止しているのかと考えてみることにしました。

電車の走行中にイラストのような状態をキープするには、身長が限られた範囲の人です。想像ですが、過去にその身長の人がこのような状態で手を入れていたときに、電車が急停止するなどして体制が崩れ、手が抜けなくてけがをしたことでもあったのでしょうか。そうだとしたら熱きに懲りてなますを吹くがごとき表現です。

私ならイラストに斜線を入れたうえで、「手すりを使うときは、しっかりと握ってください。」と表記します。握ればイラストの状態には絶対になりません。テキストを禁止にする必要はありません。

京王線の車内の安全表示ラベル(改良案)

斜線ではわかりにくいと考える場合、次の禁止標識(禁止図記号)を使っても構いません。ですが私の好みではありません。私なら手すりを握った状態のイラストを描いて禁止にはしません。

京王線の車内の安全表示ラベル(禁止標識にした場合)

なるほど、伝えたいことをよりわかりやすく伝えるということですね。

そうです。この連載も「伝える」が1つのテーマですが、このような普段見かける街中の安全ラベルについても、もう少しそのことを真剣に考えてほしいと思います。

もう1つは取扱説明書です。
今は非常時用に会社が防災用品などを用意しますが、ヘルメットもその1つです。手元にあるこの取扱説明書について考えてみたいと思います。

これは社内に配布されたヘルメットの取扱説明書です。

ヘルメットの取扱説明書表面

取扱説明書表面

ヘルメットの取扱説明書裏面

取扱説明書裏面

表面としたのは、開梱時にこの面の右上6分の1が見える状態で折り込まれていたからです。製作者としては裏面とした方がオモテのつもりであるかも知れません。この面の上部には、

保護帽の取扱説明書「安全上大切なお知らせ」

という文字列を角Rの罫で囲んだ見出しが配置されているからです。
本来「保護帽の取扱説明書」と「安全上大切なお知らせ」は別の見出しとして分けるべきですが、これが取扱説明書のタイトルのつもりでしょう。でも、同じフォーマットデザインが隣の

保護帽の「内装」取り外し方法

にも使われているので、取説のタイトルとしては正確には識別できません。といってもヘルメットにはこの表裏のペラしか同梱されていないので、誰しもこれを取扱説明書だと認識するでしょうから大きな問題ではありません。

ただし、この取扱説明書は他にツッコミどころがいっぱいあるのです。

え、また悪い例ですか?(笑)

まず、ヘルメットの正しい装着方法がどこにも記載されていません。
図解されているのは「保護帽交換の目安(20のチェックポイント)」と「内装の取り外し方」の2項目です。ユーザーは誰でも正しいヘルメットの装着方法を知っていることが前提になっているように思います。
主たるユーザーは工事現場などで働く労働者なので知っていることが前提になっているのかも知れませんね。
しかし、東日本大震災以降ヘルメットや防災用品を一般の会社でも社員に配布するようになったので、そのような会社勤めのユーザーは保護帽という言い方にはぴんと来ないでしょう。

私もこのような防災用に使うヘルメットを保護帽と呼ぶのは知りませんでした。

保護帽というのは労働安全衛生法でのヘルメットの呼び方です。

「安全上の大切なお知らせ」の下の記載項目は他社の取扱説明書を見てもほぼ同じ内容です。業界団体の取り決めがあるのかも知れません。しかし、私がネットで調べた他社のマニュアルには「着用方法」という見出しで装着手順がイラスト入りで記載されていました。しかし、我々に支給されたこのヘルメットの取扱説明書には書かれていません。

なるほど。保護帽というものに馴染みのない人には、装着方法がわかりづらいかも知れませんね。

それに、「保護帽交換の目安」という見出しに違和感を覚えます。開梱してすぐに取扱説明書を読んだときに、交換の目安が書かれているのはちょっとシュール過ぎるのではありませんか?(笑)
すぐ壊れるからよくチェックしてくださいと言っているように私には思えますね。他社の取扱説明書にもほぼ同じ内容がイラスト入りで記載されていますが、見出しが全く異なります。

保護帽点検20のチェックポイント

という見出しです。さらに、その項目の前に「使用前の点検」という見出しがあって、次のように書かれています。

  • 「保護帽点検20のチェックポイント」で点検し、少しでも異常が認められる保護帽は、使用しないでください。
  • 部品類に異常が認められた場合は、ただちに交換してください。(修繕をしないでください。)

異常が認められたら修繕ではなく交換だと言っています。交換は異常が認められたときに行うのだとこれは納得できます。「保護帽点検20のチェックポイント」は取扱説明書の見出しとして適切です。
見出しが重要であることを示す良い例です。

最後に『保護帽の「内装」取り外し方法』です。
ヘルメットの内装をユーザーが取り外す目的は何でしょう? ここには内装を取り外す目的は書かれていません。これでは取り外す必要性を想像できません。下手に素人が取り外し取り付けを行うと安全性に問題が生じるのかも知れませんし、ユーザーに行わせる作業ではないような気がします。

そうですね。そもそも使い捨てということですから内装を交換するわけではありませんよね。それとも点検や手入れに外すのでしょうか? これはまったくわかりません。

それにしても、3種類の製品の内装を取り外す方法が写真で示されていますが、手元にあるものとは種類がまったく違います。『説明写真の内装はそれぞれ代表的なものを載せております』という断り書きはありますが、取り外し手順がまったくわかりません。ひょっとしたら、これははめ込み式で取り外せない製品なのかも知れません。だとしたら、製品の識別に関しても情報が不足しています。

他社の取扱説明書にはこれに類する項目はありませんでした。

何のために取り外すのかがわからないことに加え、取り外し方自体もわかりませんね。

「伝える」という視点で考えると、いろいろオカシイところが出てきますね。伝えなくても良いことを伝えて、伝えなければいけないことを伝えていないような気がします。

ありがとうございました。

徳田直樹 プロフィール