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[とくダネ!ナオキ 第19話]海外製品の安規情報と国内事情

今回は私が購入したロボット掃除機のマニュアルを題材にいろいろとお聞きしたいと思います。

わかりました。最近はやりの自走式ロボット掃除機ですね。

掃除機本体が充電ホームに戻るとゴミを自動でホームに回収するタイプで、米国i社の製品です。
これが製品付属の(日本語)マニュアルで、原文と思われる英語版のマニュアルはWebから入手しました。

やはり英語のマニュアルから日本語にローカライズされていますね。マニュアル本編は完全に原文と同等です。シンプルな製品ですから、説明されている内容も多くはないですし、マニュアル自体にこれと言って問題はありません。ただ、よく見ると用語の定義や、規格で要求されている廃棄などの記載について、少し問題があります。

例えばどういうところになりますか?

用語で言えば、商標登録された製品名称と、ロボットという言葉が併用されています。意図的に使い分けているという感じではありません。これは統一すべきです。そのほかにも、ボタンを押すと書いていたり、タップすると書いていたりします。両者に明確な違いがなければ、これもどちらかに統一すべきでしょう。
あとは注意事項にバッテリーアイコンと書かれていますが、各部の名称やそれ以外ではどこにも書かれていません。これも用語の齟齬ですね。実際にどこを指しているのかわかりません。

確かに「ボタンとアイコン」が図示されていますが、バッテリーアイコンがどれなのかわかりませんね。

廃棄に関してですが、《バッテリーを処分する際は、充電式電池リサイクル協力店、または協力自治体へお持ちください。安全のため、端子部が隠れるようにセロハンテープなどを貼ってください。》と書かれていますが、バッテリーの取り外しについては何も書かれていませんね。

そうですね。掃除機本体のバッテリーは内蔵式で、取り外せない製品です。

でしたら《バッテリーを処分する際は》という記載は明らかにおかしいです。本体ごと処分しなければならないでしょうから、「製品を廃棄する場合は」というように記載しなければなりません。それに充電式電池リサイクル協力店というのは電池やバッテリー単体を対象としますので、バッテリーを取り出そうと思ったら本体をぶっ壊すしかありません。(笑)

従って、この製品を廃棄できるのは自治体だけでしょうね、もしくは販売店かメーカーということになるでしょう。充電式電池リサイクル協力店に製品を持ち込んでも、引き取ってはくれないと思います。

ですから、この記載は非常に不適切ですね。しかも、《安全のため、端子部が隠れるようにセロハンテープなどを貼ってください。》というのは矛盾をさらに上塗りしています。ユーザーがどうやって端子部にテープを貼るのでしょうか? 理解に苦しみますね。

もし、ユーザーが処分する際はバッテリーを取り外さなければいけないのだ、と理解して製品の分解をし始めたとします。そのとき、けがをしたら、これはマニュアルの欠陥と言えるかも知れません。

「バッテリーの正しい使い方」という箇所にも、取り外すことができないバッテリーに関して、いくつも取り外したバッテリーについて書かれています。

余談ですが、バッテリーに関する安全情報は日本メーカーも同じようなものです。取り外せないバッテリーについてこのマニュアルのように書いてあるケースは多いですよ。もしかするとこのマニュアルは日本のメーカーのマニュアルを参考にしたかもしれない。

モバイル機器を代表に、バッテリーを内蔵する製品がこの数年で爆発的に増えたと思います。実際に消費者はどのように処分しているのでしょう。

それが本当に問題になっています。このロボット式の掃除機のように比較的小型の製品であれば、意図的かどうかは別にして、場合によって一般ゴミとして廃棄されることがあります。

そうすると、ゴミ回収車で圧砕される際にバッテリーが爆発したり、ゴミ処理施設で発火したりします。これは今大問題になっています。

2001年以降、電池メーカーとそれを使う機器メーカーには回収や再生利用が法律で義務付けられましたが、発火事故やトラブルが後を絶ちません。

そうですね。モラルの問題もありますが、個人的にバッテリー製品はデポジット(預託金)制にしたらよいのではないかと思います。
ではこのコーナーのテーマでもある安全(安規)情報のページはどうでしょう?

この内容も原文の英語が基準になっているようですが、翻訳も含めてちょっとヒドイかも知れない。

そうですか!? そう思われるところを教えてください。

変な日本語表現になっていて機械翻訳ではないかと思う箇所があります。でも意訳されているところも見受けられますので、一概に機械翻訳とは言えないようですが…

例えば“READ ALL INSTRUCTIONS”は《説明をすべて読んでください》となっています。何となく機械翻訳ぽいですね。冒頭のシグナルワードの説明は次のように翻訳されています。

# 英語 日本語
1 To reduce the risk of injury or damage, read and follow the safety precautions when setting up, using and maintaining your robot. けがや損傷のリスクを低減するために、ロボットの設定や使用、お手入れの際には次の安全上のご注意をお読みの上、指示に従ってください。
2 This appliance can be used by children aged from 8 years and above and persons with reduced physical, sensory or mental capabilities or lack of experience and knowledge if they have been given supervision or instruction concerning use of the appliance in a safe way and understand the hazards involved. 本製品をお子様や、身体・知覚・思考能力が著しく低下している方が単独で使うことは絶対にお止めください。ご使用の際には安全に使用できる環境下かつ製品の安全な使用方法と危険性を理解している方の指示監督のもとで使用するようにしてください。
3 Children shall not play with the appliance. Cleaning and user maintenance shall not be made by children without supervision. お子様が本製品で遊ばないようご注意ください。また、そのような監督のない中でのお子様による清掃やお手入れは、絶対に行わないでください。

意訳していると思うのは、文2の“can be used”という表現です。これは次のような人は使用できます、という表現ですが、日本語では《絶対にお止めください》と明確に禁止されています。8歳以上の子供というのもお子様と置き換わっています。これは禁止表現にしたために8歳未満の子供を対象にしなければならなくなったのですが、年齢を明示しない表現に変えられています。

逆に、文3では“Children shall not play …”ですから原文では強く禁止していますが、日本語では《ご注意ください》と少し緩めの表現になっています。これは明確に人の意思が働いています。

ただ、これらの日本語文章がちょっと変です。(笑)

確かに、隅々まで読むとちょっとヘンテコな日本語がありますね。

もっと大きな矛盾を発見しました。いわゆるシグナルワードですが、英語と日本語の対比が次のようになっています。

英語 日本語
警告マーク WARNING 警告マーク警告
警告マークCAUTION 警告マーク危険
NOTICE 注意

シグナルワードの警告レベルというのは規格でも定められていますが、大きい順に危険、警告、注意、そして注記です。

でも、そもそもこの製品に「DANGER(危険)」というレベルの安全情報はないのです。

ロボット掃除機ですから熱や温風を発生させることもこともないですよね。

なのに日本語ではCAUTIONが危険に格上げされて、WARNING(警告)より危険だという記載になっています。

これは日本向けの対応でしょうか?

内容的に危険というレベルの記載ではありませんね。元来このような製品に危険なんてあるはずがありません。明らかに取り違えていると思います。ひょっとしたら、日本語をある程度理解する外国人が翻訳したのかも知れません。日本人ならこういう取り違いはまずあり得ません。

それぞれの安全情報の記載についてはいかがでしょう?

冒頭でも触れましたが、この製品はバッテリー内蔵型で、バッテリーの取り外しはできない製品ですね。つまりユーザーがバッテリーにアクセスしようがない製品です。にもかかわらず、取り外したバッテリーに対する注意文が多く書かれています。

例えば、子供がバッテリーに触れないようにする、バッテリーの誤飲に注意するなどです。さらに、ここにも廃棄するときはバッテリーパックを取り外せと書いてあります。やはりこれはちょっとヒドイですね。非充電式のバッテリーは使用しないとか、長期間使用しない場合はバッテリーを取り外せとか、バッテリーパックに液漏れがないか定期的に確認するなどと書いています。これは英語にも書かれていることですから、オリジナルの英語版から間違った記載がされています。

また、マニュアル本編とは異なり、日本語マニュアルにだけ記載されている文言が20ほどありますね。

それはこの製品を日本国内で使用する場合に、実情として記載しておかなければならない文言ということですか?

すべてがそうではないようです。少し見ていきましょう。

《ロボットは玩具ではありません。ロボットを使用する際には、小さなお子様やペットに注意してください。》
この文言は原文にも存在しますし妥当な記載です。

日本語にだけ記載がある文章としては、《清掃する部屋にストーブ、扇風機、加湿器などの機器がある場合は使用前に移動させてください。》という記載も、欧米では空調機器などは大抵据え付けですし、扇風機もどちらかと言うと日本文化的な製品です。ですから、こういった文言が追加されているのは理解できます。

ただし、理解し難い記載も追加されています。こういう記載が本当に必要なのかどうか、この製品には該当しないのではないかと思われる記載があります。

前者は言い換えると不必要な記載と言うことですね。

それらを挙げると次のような記載です。

安全情報(安規文) 徳田の見解
雷が鳴ったら、電源プラグに触らないでください。 抜いて差し忘れると充電できないので、基本的に充電ホームの電源は抜き差ししない。(挿しっぱなし)
電源プラグを抜くときは、必ず電源プラグを持ってください。
充電直後は、ロボット裏面やホームベースの充電端子に触れないでください。 充電部は非接触型なので端子は露出していない。どうやれば触れることができるのか。
高いところや不安定なところで使わないでください。 一般家庭用の製品という使用制限を記載している上で、どのようなところを指すのか?
故障や異常があるときは使用しないでください。 記載しても問題はないが、どのような想定やリスクから記載する必要があるのか?
電源コード、ホームベース、電源プラグを、無理に曲げる、引っ張る、重い物を載せるなどの行為により破損しないでください。
電源コードは本製品以外に使用しないでください。

これらは記載するとしても意味が不十分か、誤解を招く記載です。

安全情報(安規文) 徳田の見解
食用油や機械油を吸わせないでください。 記載するとしても、掃除する場所に水分が残っている場合は拭き取ってくださいと記載すればよい。逆に、水なら吸わせてもかまわないのか?ということになる。
ロボットの排気口をふさがないでください。 排気口を記載するなら、吸気口の記載も必要。
ロボットの排気口から金属や燃えやすい異物などを入れないでください。 どのようなケースを想定しているのか不明。
動作中はロボットの裏面に触れないでください。
充電直後は、ロボット裏面やホームベースの充電端子に触れないでください。 充電端子が露出していないことに加え、感電リスクなのかケガのリスクなのかも不明。仮に感電の恐れがあるとしても、20~25 V以下の直流なら人体に影響はない。

バッテリーが取り外せないことは既に述べました。これら(下記)も誤った記載であり、わざわざ日本語に追加する意味がわかりません。

安全情報(安規文) 徳田の見解
火気のある場所や、引火性の高いものの近くで使用したり、バッテリーを装着したままで可燃性スプレーを使わないでください。 どのようなケースを想定しているのか不明で、しかもバッテリーは取り外せない。
万一、製品から煙がでたり、変なにおいがしたり、製品が過熱したときは、ただちに使用を中止してください。また製品からバッテリーや乾電池を取り外してください。 異常時の対応としての記載は理解できるが、バッテリーは取り外せないだけでなく、乾電池は使用していない製品。

なるほど。結局原文の安規情報にも不要と思われる記載があり、日本語で追加されている記載については不要か、あいまいな記載であるということですね。

そうです。ユーザーがバッテリーパックにアクセスできない製品なのに、しきりに取り外せと記載しています。どういう意図かは不明ですが、別のマニュアルから流用を繰り返して、整理されないまま記載され続けているのかも知れません。

実はそのようなケースは国内メーカーのマニュアルでもよく見かけます。

結局はリスクアセスメントにおける残留リスクの分析において、本当に実際の使用状況を想定しているのだろうか?と疑問に思うことが少なくありません。

結局、今回もあまり良くない例という話になってしまいましたね。

だいぶ良くない例です。(笑)

ありがとうございました。

徳田直樹 プロフィール