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[とくダネ!ナオキ 第13話]マニュアル改善のポイント

前回、「プロをも戸惑わせるマニュアル」と題して実際に購入された製品のマニュアルを取り上げてもらいましたが、せっかくですから改善点や安全規格という視点から教えてください。
まずこのマニュアルをどうすれば改善できるか、ポイントを教えてください。

まず品名と型式の列記が問題です。ユーザーにそれらの記号情報を知らされても意味がありません。これはメーカーの都合でしかないわけです。ユーザーに必要なのはその識別方法です。

あなたが使う製品はこの品名と型式です、という識別情報です。製品の銘板に刻印されているのであれば、最初にそれをユーザーに伝える必要があります。

ガステーブルや冷蔵庫などの設置型電気製品は、設置してしまえばたいてい銘板は隠れてしまいます。ですから、やはり設置手順より前に記載すべきでしょう。

併記された共通マニュアルにおいて、使用する製品がどれであるかという識別子が冒頭に必要と言うことですね。では、さらに冒頭に書かなければならない情報はありますか?

規格でも、対象となる製品の識別子とその識別方法を記載することが要求されています。

言い換えれば、品名などの識別子が複数ある場合は、ユーザーが所持している製品の品名を確認するための方法を最初に記載しないといけません。メーカー側は理解していても、ユーザーには識別できないのですから。

紙マニュアルで考えた場合、その識別情報はどこに記載すべきでしょうか?

やはり冒頭にある各部の名前に、この製品の識別子はここにありますとか、こうしたら識別子が判別できますという情報を載せるべきでしょうね。

次に設置ですが、どのような改善が考えられますか?

付属品情報を各部の名前よりも先に記載すべきです。本体以外の付属品すべてをイラスト付きでその数量も示します。例のグリル内に取り付ける部品について言えば、各部の名前の前にそれが無いというのは明らかに問題なわけです。

各部の名前や設置のイラストには全体図が描かれていますが、ここから名前もわからない小さな部品の識別は困難です。設置のところで、この部品についてユーザーが理解できないということは、設置ができないか、誤った設置になる可能性があります。

はじめに付属品リストがあれば、その後の設置もスムーズにいきます。やはり構成を見直すべきです。

安全の注意(安規情報)についてはどうでしょう?

やはりこれだけたくさんの安全上の注意があるとわかりづらいです。まず読む気にならないし、読んでも覚えてられません。

現状の安全上の注意の構成は、必ず守ること、設置編、コンロ・グリル共通編、コンロ編、グリル編、グリルのお手入れ編、そしてお願いと7パートに分類されています。

冒頭から数ページにわたって記載されていますが、いわゆる安全のための注記という全般情報以外は、関係する操作手順のところに書くべきです。

設置のときの注意は設置手順のところにあれば良いですし、調理するときの注意は調理手順のところにあった方がユーザーも理解しやすいですよね。

以前にも言いましたが、冒頭の注意喚起は全体に共通する安全情報だけ記載します。つまり使用制限など大事なものだけ最初に記載すべきなのですが、具体的な操作時の注意なども含めすべて最初に書かれています。

これは安全表記を最初にまとめるという規格の要求を勘違いしているということですね。

安全表記と警告メッセージは異なる性質のものです。警告メッセージというのは、手順などの文脈に従ってメッセージを出すべきなのです。たとえば、揚げ物をするときの発火注意というのは、揚げ物をする手順のところに記載が必要です。

これが整理されずに、安全表記と警告メッセージを最初に一緒くたに書いてしまっています。これは今の日本のマニュアル全般に言えることですが、実はここが大きな問題になっています。

何故かというと、ユーザーは最初に記載された安全上の注意を毎回読みません。ユーザーが手順を読んだときに、そこに書かれていないと意味がなくなります。

これについては、初回の「安規情報はもっと整理できる」で詳しくお聞きしました。同様のことですね?
[第1話]安規情報はもっと整理できる

そうです。ユーザーの識別子に関しても、まだまだ整備されているとは言えません。

ユーザーの識別子とは、具体的にどのようなことですか?

製品を使う対象の人です。どういう人が使う製品なのかをきちんと記載する必要があります。

規格でもユーザーの使用制限として必ず書くことが要求されています。

たとえばこのガステーブルでも、安全上の注意の中途に「乳幼児や子供に触らせない」という記載があります。このような情報は、マニュアルの最初に書く必要があります。このマニュアルで言うと、最初の必ず守ることに記載しないといけません。

それにしても、子供というのは何歳を指すのでしょう? 中学生ともなれば、料理する子供もいると思いますが?

それも問題です。ユーザーの識別において、子供というような言い方をしてはいけません。それでは曖昧過ぎるので、年齢を書かなければいけないのです。8歳以下には使わせないとか、使う場合は大人が付き添うとか、具体的に記載することが必要です。

玩具や映像コンテンツなどの業界では、年齢指定が一般的になっていると思いますが。

この業界が遅れていると思います。

乳幼児には触らせないというのも少しおかしい指示です。乳幼児には普通そばに親とか大人がいます。そういう大人が乳幼児に使わせるでしょうか? その確率は非常に低いと思います。

乳幼児に触らせないという記載自体、必要ないということでしょうか?

そういうことです。

一般論として、このような乳幼児や子供に触らせないように注意する、というような記載はよく目にしますが、書いておかないといけない(と思われる)ことをただ並べているだけ、という感じがします。製品ごとに使用状況は変わるのですから。

ガステーブルを例に挙げても、ビルトインと設置型ではそれが異なってきます。でも恐らくは同じ記載内容を使用することも多いはずです。マニュアルを複数の型式で共通のものにすると、このガステーブルのマニュアルのように安全上の注意がどんどん増えてしまいます。

使い方や機能説明についてはどうでしょう?

このガステーブルも便利な機能がいろいろと付いています。自動やタイマー機能などですが、その手順説明において、手順の終了が明確に記載されていません。これも一般的によく見かけます。つまり、この手順の操作はこれで終わりですという記載がないのです。

例えば、自動調理をスタートさせるときに、点火する、設定をする、調理が終わるとブザーでお知らせしますと一連の手順が記載されています。この場合、設定したら調理の実行手順は完了していますので、そのことを書かなければいけません。

規格でも、手順操作の終了は必ず書くことが要求されています。

以上でこの操作は完了です、調理終了までお待ちください、というような一文ですね?

そうです。必ずしも手順番号を書く必要はありませんが、手順操作の終了は必ずユーザーに伝えなければなりません。

今お話ししたような内容を改善するだけでも、ずいぶんわかりやすいマニュアルになると思います。少なくとも戸惑う人は少なくなりますね。(笑)

随所にお聞きしたのが、今回取り上げたマニュアルに限ったことではなく、一般論としてよく見かけるということでした。

今回はたまたま購入した製品を例に挙げましたが、こういったマニュアルが多くあるのも事実です。

ユーザーが購入してから使い始めるまでの説明が良くないものも少なくありません。

そういう今の日本のマニュアルに関して言うと、本当に実際の使用状況を想定して作っているのだろうか?と思うことがよくあります。

設置や使い方に関しても、ユーザーを想定した製品テストをしていないのだと思います。

そういうテストは普通行うのですか?

ユーザビリティテストと言いますが、実施するかどうかは製品にもよります。今回のような製品は、実施しておくと、私が感じたような戸惑いや、マニュアルの内容についてもう少し品質の良いものにできたのではないでしょうか?

メーカーは普通どのように行うのですか?

社内から人選してテストを行うこともありますし、委託する場合もあります。いずれにしてもマニュアルが基準になりますから、専門会社に依頼した方がより確実に行えるでしょう。パセイジやクレステックでも行っています。

ユーザビリティテストを実施して、その結果をマニュアルに反映させていくということですか?

いえ、段階を経ることもありますが、ある程度完成したマニュアルを基準にテストしないと意味がありません。マニュアルを見て、設置や使用まで問題なく行えるかどうかというのがマニュアルのユーザビリティテストです。

今回は私がそのテスターだったということですね。その結果かなり戸惑ったということですから、やはり改善すべきポイントは山ほどありましたね。(笑)

徳田直樹 プロフィール