[とくダネ!ナオキ 第54話]車内ポスターに物申す
通勤中に光治療の車内ポスターが2枚近接して貼られているのが目に入りました。
それぞれ次のキャッチコピーが書かれています。
化粧品では届かない
余計な色素を 粉砕・排出
化粧品では届かない
余計な色素を排除
化粧品では届かないという意味が不明ですが、いずれにしてもシミの除去という広告ですね?
そうなのですが、同じ光治療のキャッチコピーなのに全く内容が異なります。
どちらもそれを取り除くというコピーですよね。
どちらのキャッチコピーにも主語がありませんが、ポスター全体を見渡せば主語は「光(Intense Pulsed Light )」だと考えられます。
ま、何らかのレーザー光を当てるということですよね。
レーザー光ではなくキセノンランプの光です。300nmから800nmまでのかなり広い範囲の波長の光にフィルターを使ったりして肌にあてる波長を変えているようです。さて、前者の表現は中黒(・)で粉砕と排出を区切っていますのでこれらは並列です。
これは文化審議会国語分科会が令和3年に発行した【新しい 「公用文作成 の要領 」に向けて(報告)】でも定義されていますし、ほとんどの人は並列を意味することは理解していると思います。
つまり、光が余計な色素を粉砕したり排出したりするという意味になります。
ホントかどうかはわかりませんが、シミなどを粉砕することでそれを排出するから肌が白くなるということですよね。
でもこれはおかしいですね。粉砕する主体は光かもしれませんが、ここでの排出の意味を考えれば、排出する主体は光ではなく人体です。異なる主体のアクションを表す言葉を中黒で並列にすることはできません。
これは中黒の使い方を間違えています。
あ、なるほど。光がシミを粉砕するのに対し、人体が粉砕されたものを排出する、という主体の違いですか。
後者の表現は光が余計な色素を排除すると解釈できます。排除とは、大辞林によれば「おしのけてそこから除くこと」です。すなわち光が物理的な力を色素に加えるということです。前者の「粉砕」も同じく物理的な力が必要ですね。
光にそんな力があるとは思えません。そもそも光を主語に排除や粉砕を使うのはおかしいのです。
そうですね。放射線によりがん細胞を死滅させるのはわかりますが、取り除くという物理行為は考えられないですね。
ですから、どちらのキャッチコピーも日本語としておかしい。
この治療法の効能を私がどうこう言うことではありませんが、テクニカルコミュニケーターとして言葉の使い方にひとこと言わせてほしかったのです。
キャッチーなコピーを狙うとしても、日本語がおかしいならそもそもダメだということですね。
物申したいといえば次の車内ポスターもそうです。「免疫機能は40歳から低下する」という内容のポスターなのですが、そこに描かれているグラフがこれです。
ま、免疫機能だけでなくヒトのいろんな機能はだいたいこれと同じように低下していきますよね。
そうなのですが、縦軸に免疫機能がパーセンテージで表されています。このようなグラフを作るときには基準となる年齢の免疫機能を100%として描くのが標準的です。このグラフには100%が記されておらず、基準となる年齢もわかりません。
そういえばそうですね。これでは人間の免疫機能はそもそも最大でも40%しかないという理解になります。
何を指してのパーセンテージなのかもわかりませんし、どっちの軸が年齢なのかも一見わかりにくいですね。
そういう意味でかなりいい加減なグラフといえるかも知れませんね。(笑)
右上に20歳と書かれているのでこれが基準となる年齢とも解釈できますが、いずれにしても免疫機能の年齢による変化を表すだけなら縦軸の数値は書かないほうがまだマシです。
何のポスターかは知りませんが、こういう広告の商品やサービスは私なら遠慮しますね。
もしかすると、元原稿のグラフはこのイラストのように変化を表すだけで%値は記入されていなかったのかもしれません。それを縦軸の長さの20歳の値が40%に見える長さだったため、上記のようにしたのかもしれません。
その場合デザイナーがやっちゃったことになりますね。だとしてもスルーしているのが問題ですが・・。
これは勝手な想像ではあるのですが、ポスターの制作者が気を利かせて%値を追加した可能性もあります。良かれと思ってやったことが余計なお世話になった、ということかもしれません。
言語もそうですが、表現は正確性や常識的な基準から外れると余計な誤解を招く場合がありますね。
今は景品表示法もありますから、無知だけでは済まされない場合もあるので気を付けなければいけません。
ありがとうございました。