[とくダネ!ナオキ 第74話]パズルとTC、関係あるの?
明けましておめでとうございます。今年も読者の皆さんがうなるとくダネをお願いします。
おめでとうございます。ではカルタではなくパズルの話をします。無理やりテクニカルコミュニケーション(TC)に結び付けようと思います。
インターネット上で見つけたパズルで気に入ったものはいくつもありますが、なかでも最近のお気に入りは次のパズルです。
5枚の長方形の紙のそれぞれににひらがなで言葉を書き、それらを半分にちぎった紙片を写真のようにランダムに並べます。これらの紙片を2つずつ組み合わせてすべて言葉にするという簡単なパズルです。ギザギザになった部分を合わせます。読者の皆さんも解いてみてください。意外と難しいですよ。
簡単そうですが、4つの言葉を組み合わせたらいいのですね?
正解は後ほど述べるとして、まずは以前からインターネット上で話題になっている
「60を半分で割って20をたしたらいくつになるでしょうか」
というパズルをTC視点で考えてみようと思います。
先のパズルは伏線ですか?(笑)
インターネット上で見つかる答えはほぼ次の3種にしぼられます。
① 50
② 22
③ 140
それは①の50でしょう? これは小学生用の問題ですか? もしくは引っ掛けですか!?
しかし中には
60/2+20=40
というトンデモな回答も見つかります。トンデモ回答はGoogle BardというGeminiの前身のAIが出した回答です。現在のGeminiはこのような答えは返しません。初期のAIは数式の計算もできなかったことが驚きです。
そうですね、当時はたいして役に立たないかなとも思いましたが今や・・(笑)
① は問題文の「半分(で)割って」を「半分(に)割って」と文字を置き換えて
60/2+20=50
と計算しています。AIに聞いてもこの答えが返ってくることが多かったようです。この答えを返したAIに対してあの手この手で反論しても、この答えが正解であると譲らなかったという事例もありました。
そうですね、確かに60の半分というのが曖昧な設問です。
② は「60を半分で割る」を「60を(その)半分で割る」であると解釈して
60/30+20=22
と計算しています。
③ は「半分」を「1/2=0.5」と解釈して
60/0.5+20=140
と計算しています。「半分」の意味は1の半分に限定されるわけではないのでこれも無理筋です。
いずれも問題文の書き換えに近いことを行っています。
私が最初に出した答えは22でした。②の考え方です。
やはり半分をどう解釈するかですね。
しかし、テクニカルコミュニケーターの立場に立った場合は、「問題文が不完全なので正解はない」と答えなければならないと思います。
そうですね、60の後の助詞により意味が変わりますね。もし①であれば60を半分にして、という文にならないといけませんね。
とりあえず、AIが最近も同じように回答するのかと思いChatGPTに聞いてみました。
私:
60を半分で割って20をたしたらいくつになるでしょうか?
ChatGPT:
計算してみましょう!😊
1. 60を半分に割る → 60÷2=30
2. その結果に20を足す → 30+20=50
答えは50です!
私:
間違っているのでは?
ChatGPT:
間違いないですよ!😊
「60を半分で割る」という表現がちょっと紛らわしいかもしれませんが、「60 ÷ 0.5」と解釈すると結果が変わります。もしそちらの計算を意図しているなら、以下のようになります:
1. 60を0.5で割る → 60÷0.5=120
2. その結果に20を足す → 120+20=140
この場合は答えが140になります!
どちらの意味か教えていただければ、さらに確認できますよ! 😊
なんと①と③の両方の答えが返ってきました。「60を半分で割る」という表現が紛らわしいとまで言っています。
ホント進化してますね。
そこで②の回答を期待して次のように聞いてみました。
私:
60をその半分で割って20を足したらいくつになるでしょうか
ChatGPT:
「60をその半分で割る」ということは、「60を30で割る」という意味ですね!
計算してみます:1. 60をその半分(30)で割る → 60÷30=2
2. その結果に20を足す → 2+20=22
答えは22です! 🎉
期待通りの答えが返ってきました。AIも進化しています。次に聞き方を変えてみました。
私:
60を半分に割って20を足したらいくつになるでしょうか
ChatGPT:
「60を半分に割る」という表現だと、60 ÷ 0.5 と解釈しますね。
計算してみます!
1. 60を0.5で割る → 60÷0.5=120
2. その結果に20を足す → 120+20=140
答えは140です! 🎉
私:
半分に割るとは1/2にするということですが
ChatGPT:
なるほど!「半分に割る」とは「1/2にする」、つまり60を2で割るということですね。では計算し直します!
1. 60を2で割る → 60÷2=30
2. その結果に20を足す → 30+20=50
答えは50です! 😊
わかりやすく説明していただき、ありがとうございます!
『「60を半分に割る」という表現だと、60 ÷ 0.5 と解釈しますね。』という部分から、AIも日本語の解釈に関してはまだまだということがわかります。それにしても、AIも謙虚になったものです。
映画インターステラーで、人間がロボットにユーモア度や正直度などのパラメーターを付与するシーンを思い出しました。生成AIも謙虚度とか設定できるようになれば面白いですね。
そういう機能はいずれ実装されるでしょうね。質問に対して複数の解釈が成り立つ場合、最上位の解釈を捉えるか、複数の解釈を投げかけるか、解釈度なんてあってもいいですね。
それで、まぎらわしくない質問は「60を半分にして20を足すといくつになりますか?」ですが、これだと50が答えとして返ってきます。
ChatGPT:
「60を半分にして」というのは、60を2で割るということですね。計算してみましょう!
60を半分にする →60÷2=30
その結果に20を足す →30+20=50
答えは50です! 🎉
それにしても今の小学生はChatGPTで宿題できますね。プロンプトへの質問も含め、算数と国語が一度に勉強できるような気がします。
確かにそうですね。今年10年に1度の学習指導要領が改訂されますが、AIをどう扱うのかも焦点になっています。
さて、何を話そうとしていたのか忘れるところでした。パズルをTCに結び付ける話でした。
今日話題にした2番目のパズルの文章は意図的に誤解されやすいように作られています。
パズルは読者を楽しませなければなりません。問題文を誤解されやすい文章にすることによってその目的は達成されています。しかし、それはTC的にはNGです。
矛盾や誤解を招いたり、複数の解釈が成り立ったりするような文章はダメだということですね。
そうです。テクニカルコミュニケーターが気をつけなければならないのは、無意識のうちに誤解されるような文章を書いてしまうことです。次の文章を読んでください。
「手動投入する場合は、表示された洗剤量(目安)に従って、洗剤を入れてください」
これは洗濯機に洗剤量が表示されるということですね?
まだドラフト段階の洗濯機の取説に書かれた説明の一部です。一見、問題なさそうです。
これを書いたライターは、洗濯機の操作パネルに表示された洗剤量のつもりで書いたのですが、ユーザーが洗剤の容器に表示された洗剤量と解釈する可能性に思い至らなかったのです。
確かに、どこに表示された洗剤量かという目的格がありませんね。
製品について知りすぎているとついやりがちなことです。もちろん上の説明は最終的には
「手動投入する場合は、操作パネルに表示された洗剤量(目安)に従って、洗剤を入れてください」
という文章に修正されてユーザーのもとに届けられました。皆さんも誤解されるような文章を無意識のうちに書かないように気をつけましょう。
次は電車内のポスターで見つけた「大人も不正解続出」というパズルです。
ちょっと考えてみます。
うーん、❶のセルロースですよね?
そうです。とくダネの読者の皆さんも正解が「セルロース」であることはすぐにわかるでしょう。
では、不正解続出になった理由はなんでしょう。TC的には2つの理由が考えられます。
1つは「読点(、)の使い方が良くない」であり、もう一つは「文が長すぎる」です。
なるほど、やはり主格の後ですか?
読点については2番目の読点がグルコースとセルロースを分離しているため、セルロースがグルコースからできていることが分かりにくくなっています。この読点を削除するだけで正解率が上がる気がします。
すなわち、「アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンは分解するが、同じグルコースからできていても形が違うセルロースは分解できない。」とするわけです。
なるほど。若干長いかな?と思ったのでそこに読点を入れたという気がしますね。
また、表現に一貫性を持たせればさらに正解率が上がると思います。その場合は、「アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできているデンプンは分解するが、同じグルコースからできていてもつながり方が違うセルロースは分解できない。」となります。
なるほど、理解しやすくなったと思います。
文の長さについては、最初の文は句読点をいれて69文字です。今時の大人にとって69文字は長すぎて読み切れないのかもしれません。TC協会発行の日本語スタイルガイド第3版では一文の長さは50文字以下がよいとされています。『一生使える Webライティングの教室 』(マイナビ出版)の著者である片桐光知子氏によれば、一文の読みやすい文字数は、Webの文章なら「20~40文字以内」とのことです。
最近の大人はスマホ向けの文章に慣れすぎているので、この問題文の文字数が多すぎて意味が読み取れないのかもしれません。もしそうだとすると、私たちテクニカルコミュニケーターがWebで情報を提供するときは、もっと1文の長さに気を付けたほうがよいのでしょう。(片桐光知子氏の論拠を詳しく知りたい方は、氏のnoteの記事がお勧めです。https://note.com/michiko_katagiri/n/n7e52fe1a0b0a)
読んでみます。
問題の文は、40文字以下の2つの文に書き換えることができます。
「デンプンとセルロースはグルコースがつながってできているが、つながり方が違う。アミラーゼという酵素は、デンプンは分解できるがセルロースは分解できない。」
ただし、こうするとパズルとしては成立しなくなりますwww
だったら法令や条文もわかりやすく書いて欲しいと思います。わざと難解にしているとしか思えないくらいです。
法律文書などは確かに読みづらいと言えますが、誤解を与えてはいけないという原則があります。明確に意味内容を把握できない曖昧な表現や、複数の解釈を与えてしまう表現は使ってはいけないからです。
それにしても固すぎると思いますが・・(笑)
さて、最初のパズルの答えです。
私は「もち」と「ぎあし」が残ってしまいました。
写真では「しんばる」になる紙片の組み合わせを赤線で囲んで、例として示しています。これが曲者です。パズルを解こうとする人は、この例に影響されて、上の4枚から1枚、下の4枚から1枚選んで組み合わせようとしてしまうのです。これではうまくいきません。
ヱ! でも合わせ目のギザギザ部分が上と下で別じゃないですか?
「もちもの」、「あらいぐま」、「つきそい」と組み合わせると、最後に「たから」と「ぎあし」が残ってうまくいきません。例が示されているせいで、上下ひっくり返しても読める紙片が2枚あることに気が付きにくくなるのです。右端の2枚の紙片は、上下ひっくり返しても読めるのです。右上の「つき」はひっくり返しても「つき」と読め、下に置くことができる紙片になります。下に置くと左の3枚とギザギザが同じになります。
まんまと引っかかりました。 (´・ω・`) ショボーン
そうですね。右下の「そい」もひっくり返すと「いそ」と読めるようになり、上に置くとギザギザが左の3枚と同じになります。これでわかりますね。
そうすると「もちつき」、「あらいぐま」、「たからもの」、「いそぎあし」とすべての紙片を組み合わせることができるのです。このパズルは実際に紙片でやると簡単にできます。写真を使って動かせないようにして、例を見せるのがこのパズルのみそと言えます。
これはTCと関係ないんかーい。(笑)