[とくダネ!ナオキ 第41話]修理する権利
今回はメーカーにとってけっこう重要な話題だとか?
そういうことになるかも知れませんね。
先日、iPhoneの電池の持ちが悪くなったので、巷のiPhone修理業者に持ち込んでバッテリーを交換してもらいました。ただし、この業者はAppleの正規の修理業者ではありません。
交換を始める前に、「バッテリーを交換すると警告メッセージが出ますがそれでも交換しますか?」と念を押されました。警告メッセージが出ても動作に問題はないとも言われました。
つまり正規ではない修理に同意したということですね。
バッテリー交換後、1週間は画面をオンにするたびに警告メッセージが出ました。その後は[設定]-[一般]-[情報]の画面に以下のメッセージが出続けています。
なるほど。システムはバッテリーの個体識別をしているということですね。
これはアップルが自社あるいは正規代理店以外でのバッテリー交換を認めていないということです。アップル好きのユーザーとしては、これは不満です。
私はアップルからとっくに足を洗っていますが、今はそういうシステムになっているのですね。
今、欧米ではユーザーの「修理する権利(right to repair)」が話題になっています。「修理する権利」とは製品を購入したユーザーが、メーカーの修理サービスを介さずに自身で修理することができる権利です。
米国ニューヨーク州で、10ドル以上の電子機器を対象にした「修理する権利」を認める「デジタル公正修理法」が2022年12月28日に成立し、2023年7月1日から施行されることになりました。
先日メーカーのご担当者からそれについてお聞きしました。メーカーさんにとって良いことかどうかはわかりませんが。(笑)
今までは、電子機器はメーカーや特定の修理業者のみが製品を修理できました。しかしこの法律によって消費者と独立系修理業者の両方が電子製品を修理できるようにすることが製造業者に義務づけられたのです。同法の要件を以下にまとめておきます。
2.要件
(a) 本州で販売または使用されるデジタル電子機器およびその部品について、知的財産権を有する自社製品を製造する事業者(以下OEM)は、OEMが製造または販売するデジタル電子機器の独立修理業者および所有者に対して、公正かつ妥当な条件で、当該デジタル電子機器およびその部品の診断、保守、修理に必要な文書、部品、ツールを提供するものとする。このような文書、部品、およびツールは、当該OEMが直接、または認定修理業者を介して利用できるようにするものとする。
メンテナンスに必要な情報や部品を提供しなさいということですね。
ただし、この法律では製造業者自らが持つ知的財産権を守るための行動をとることが許されています。従って製造業者が知的財産権を守るという理由で個々の部品ではなく、ユニット化した部品単位で提供することが可能となっています。これにより、たとえば、スマートフォンメーカーが、マザーボードやバッテリー、ディスプレイをユニットとして修理用の部品として提供することができるので、個人で修理しようとしても、製造業者に依頼するのと同じくらいの費用が掛かることも考えられます。つまり、製品を買い換えたほうが安い場合もあり得るのです。
いずれにしてもメーカーはそれらの準備を余儀なくされるということですね。
この法律の対象は、2023年7月1日以降にニューヨークで製造および販売されたデバイスにのみに限られ、法案の発行日よりも前に製造・販売された製品には適用されません。
今年7月に市場に出る製品ですともう開発が進んでいる製品に対して対応が必要になるということですね。これは大変なような気がしますが?
この法律は製造業者のロビー活動でさまざまな抜け道が作られたともうわさされていますが、それでも法律化されたことに意味があると思います。
ニューヨークだけではありません。EUにおいても修理する権利は議論されています。以下は欧州議会のプレスリリースの抜粋です。
欧州議会
修理する権利
欧州委員会は、消費者のコスト削減と循環型経済発展の観点から、「修理する権利」の確立を発表した。修理する権利とは、法的保証期間中の修理、法的保証期間終了後の修理、消費者自身が製品を修理する権利など、さまざまな問題や状況を指す。
完全に欧米で協調していますね。
一部の製品に関しては、修理する権利に関連するエコデザイン規則がすでに施行されています。小型電気冷蔵機器、電子ディスプレイ、家庭用食器洗浄機、家庭用洗濯機、溶接機、直販機能付き冷蔵機器に対する規則です。
これらの規則ではプロの修理業者やエンドユーザーが特定の修理用スペアパーツと修理マニュアルを容易に入手できるようにしなければならないことが規定されています。これはユーザーが修理する権利を有していることが前提です。現在、EUの契約法では、消費者に法的保証期間中に故障した製品を修理してもらう権利を与えていますが、新世代のエコデザイン規則では、少なくとも一部の製品について、製造業者は一定期間(最終ユニットが市場に出てから10年)、スペアパーツの入手が可能なようにしなければならないと規定しています。
日本でも耐用年数や部品保持期限(補修用性能部品の保有期間)は一般的に知られていますが、それを延ばさざるを得ないということですか?
それだけではなく、メンテナンスに必要な情報をユーザーがいつでも入手できるようにしなければなりません。輸出製品の場合欧米が定めたこれらの法律に対応していく必要があります。
日本ではまだ論じられていませんが、PL法のように遅かれ早かれこのような法律が日本でも制定されるでしょう。そうすると国内向け製品にも対応していくことになりますね。
たとえば、洗濯機のエコデザイン規則には次の規定があります。
(b) 家庭用洗濯機及び家庭用洗濯乾燥機の製造業者、輸入業者又は公認代理店は、そのモデルの最後のユニットを市場に出してから最低10年間、少なくとも次のスペアパーツを専門の修理業者及びエンドユーザーに提供しなければならない:
ドア、ドアのヒンジとシール、その他のシール、ドアのロックアセンブリ及び洗剤ディスペンサーなどのプラスチック周辺機器。
(b)に関係するスペアパーツのリストとその注文方法及び修理説明書は、モデルの最初のユニットを市場に出す際、及びこれらのスペアパーツの入手可能期間が終了するまで、製造者、輸入者又は認定代理店のフリーアクセスのウェブサイト上で一般に公開されるものとする。
部品保持期限は最低10年、それにメンテナンスマニュアルを公開しなさいということですね。
修理マニュアルがネット上にあるかどうか調べてみたら、ありました。次に示すのはBOSCHの洗濯機の修理マニュアルの一部です。
フロントドアの分解および組立方法が説明されているのですが、組み立ては分解の逆の順序で行うなど、かなりアバウトな感じがします。マニュアルの最初に次のように言い訳が書かれています。
1.1 Important information
1.1.1 Purpose
These repair hints support consumer to repair appliances by himself according to the applicable eco-design regulation (as of 03/2021).
They contain information how to exchange defined spare parts including warnings and risks.
In case of questions, please contact our customer service. We will only be liable for damages if the repair hints have been followed properly.
規則に従うにはこの程度のマニュアルでよいと解釈されているようです。日本のメーカーがこの規則にどのように対応していくのか注意していきたいと思います。
従来感覚で言うと、メーカー内部で使用する技術マニュアルのようなものだと思いますが、これを一般ユーザーにも公開しなさいということですね。
私としてはEUのこのエコデザイン規則の方向性には少々疑問を感じます。エコデザインを重視するがあまりユーザーの安全をなおざりにしている気がします。ドアのガラスが割れるなどの事故は日本国内でも起こっています。素人がドアを分解、組み立てをしても安全性が保たれるものでしょうか。
私もちょっと引っかかっていたのはその部分ですね。
いわゆる家電製品においての分解禁止部分や、ユーザー責任における交換などをした場合は保証対象外にするというメーカー側の通例もあります。
冒頭のiPhoneの電池を非正規で交換した場合などはこのケースになりますね。
今後は業者の非正規も正規も無くなるということですから、トラブルが起こった場合の責任の所在がすごく不明瞭になるような気がします。
ユーザーには理解できない免責文が増えなければいいのですが。
その辺りはまた次回取り上げてみましょう。