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[とくダネ!ナオキ 第31話]「本機」や「本製品」の“本”って何?

今回は取扱説明書の中でよく使われる用語についてですね?

トリセツを読んでいるとよく出くわす「本機」や「本製品」という表現です。実はコレが曲者くせものなんです。接頭語の“本”は、手元のデジタル大辞泉によれば《今、現に問題にしているもの、当面のものであることを示す。》とあります。

対象とするもの、ということですよね。

昔(30年以上前)翻訳の仕事をしていた頃、この「本機」という単語の翻訳をめぐってクライアントと大喧嘩になったことがあります。「本機」は英語に翻訳できないから具体的な製品名を教えてほしいと言ったら、多くのマニュアルで共通した表現だから製品名には代えられないというのでした。
直訳して“this unit”や“this equipment”は使えないのか?というのですが、それでは意味が通じなくなる場合があります。ですから絶対にダメだと言っても受け入れられませんでした。

技術文書などの言語展開においては日本語を基準にすることはほとんどありませんからね。

そのクライアントは今でもお付き合いがありますが、担当者が別部門に移られるまで10年以上も疎遠になっていました。そういうこともあり、久しぶりにこの表現を話題として取りあげてみたいと思います。

最近、家電製品はスマホと連携できることが多いですよね。先日も冷蔵庫を買い換えたらスマホと連携ができるようになっていました。

IPアドレスを持つ製品やスマホと連携できる家電製品も多くなりましたね。

このアプリの取扱説明書の『ご使用時のお願い』の記載に、

「○△」アプリ(以下「本アプリ」)および….

という記載がありました。ところが次のページには、

本製品で使用する….

という表現が本文2行目から出てきます。このページには「本製品」が計4か所使われていますが、全体を通してこのページ以外では「本製品」は使われていません。

同様に、「本アプリ」という表現は『ご使用時のお願い』に3か所、これより前のページに2か所で使われているだけです。これだけでも十分に問題だと思いますが、単純なケアレスミスだとしておきましょう。

それほど出現しないのに、「本製品」などと代名詞にする必要がないということですか?

問題は最初に出くわす《本製品で使用する無線LANは工事設計認証を取得しているため免許を申請する必要はありません。》という表現です。これを読む限り「本製品」は「本アプリ」のことではありません。では何でしょうか。アプリのトリセツで話題にするのは特に断りがない限りアプリのことです。アプリが直接使用する無線LANはスマホが存在する環境にある無線LANです。スマホを通じて接続する無線LANは冷蔵庫が使用する無線LANでもあります。無線LANに工事設計認証とはどういうことでしょうか。意味が分かりません。工事設計認証を取得しなければならないのは無線設備です。LANは環境であって無線設備ではありません。

少々ややこしい記載ですね。無線LANの屋外利用のことを言っているのでしょうか? だとしたら冷蔵庫を屋外で使用することもあまりないと思いますが。

そうですね。ここで言っているのは冷蔵庫の無線設備のことでしょう。しかし、この表現では冷蔵庫の無線設備のこととは言えてません。「本製品」が冷蔵庫を指しているとはトリセツのどこにも定義されていないからです。

冷蔵庫に内蔵されている無線LANユニットが小規模な無線局に使用するための無線設備であり、工事設計認証を受けているということなのでしょう。改めて言いますが、そのことをこの表現では伝えることはできていないのです。

なるほど、この場合「本製品」とはスマホアプリ、冷蔵庫、冷蔵庫の無線LANユニットいずれを指しているのか不明確ですね。

原因は、この文章が他のトリセツからの流用ではないだろうかと推測します。流用を可能にするために本製品本機を多用する傾向はどこのメーカーにも見られます。それが対象製品ではないトリセツに流用されるとこのような結果となります。

でしたら固有名称はすべて変数化するなど考えれば良いと思いますね。訳者も苦労しません。

そういうことも含めて、制作者は十分に注意してほしいというのが一番言いたかったことです。

本記事をお読みいただきありがとうございました。みたいなものですね。(笑)

徳田直樹 プロフィール