[とくダネ!ナオキ 第3話]安規情報はもっと整理できる Vol.3
安規情報について話が盛り上がってしまいましたので、今回も前号からの引き続きです。
企業のリスクアセスメント文書は、マニュアル部門が要求したら設計・開発部門から出てくるものなのか、詳しく教えてください。
日本では出てこないかも知れません。リスクアセスメントやクオリティコントロールに関して、日本は正しく行われているかどうか疑問を感じるからです。もっと言えば、はなはだあやしい、ということです。
一般論ですが、日本ではリスクアセスメントやクオリティコントロールの手法が確立されていないからです。もちろんきちんと実施している会社もあります。
各種認証機関の認証を取得するために、認証をサポートする会社があり、安全性のテストを請け負う会社もあります。クレステックでもそれは行っています。
もう少し具体的に言うと、たとえば、電源コードに関する記述はどの製品もだいたい同じことを書いています。電源プラグにほこりが溜まらないように定期的に掃除してください。とか、プラグを持って抜いてください、コードを引っ張らないでください。そういうことが書かれていますが、家庭用アイロンのように使うときにだけ電源コードを挿すような製品は、ほこりが溜まりようありません。この場合、家庭用アイロンにはその記載は必要ありませんね。その代わり、コードを持って抜くようなことは想定されるのでその記載は必要です。
そうですね。家庭用アイロンの電源コードを挿しっぱなしで何年も使う人はいませんね。
では冷蔵庫はどうでしょう? 電源コードは挿しっぱなしですよね。それに、たいていは陰に隠れて見えませんので、ほこりがどんどん溜まっていても気が付きません。ということは冷蔵庫にはそのリスクがあるわけですから、冷蔵庫の電源周りは定期的に掃除してください、ということを書かなければいけません。逆に、電源コードの抜き差しに関して言えば、冷蔵庫の電源コードは抜き差ししません。基本的に挿しっぱなしです。抜くときは壊れたときですよね。そこにコードを持って抜かないでください、という記載の必要性はどこまでありますか? それなのに、そのようなことが全部書かれているマニュアルが多く存在します。
可笑しいですよね。つまり、それは整理されていないということなんです。製品ごとに書く内容は当然異なります。ですから、新しい製品ができるごとに毎回チェックが必要です。その中で、どういう事故の可能性があるかをチェックするのが設計部門の仕事です。当然その文書は残りますから、マニュアル部門はそれを基準に書くというのが正しい姿です。
安規情報を何らかのカタチで管理しているとしても、リスクアセスメント文書を基準に精査していくということが重要なのですね。
それをやれば、今のようにあんなに沢山の安規情報を書かなくて済みます。
そうですね、どのような家電製品を買ってもマニュアルの冒頭にアレをしてはいけない、コレをしてはいけないという内容がたくさん載っています。私もくまなく読み込むことはほとんどありません。(笑)
そういうマニュアルを例に挙げると、「安全に使用するために」などの安規なんて書き方はしない方が良いです。使い方のところに、条件としてこういう使い方をしてはいけませんとはっきり書くことの方が重要です。それが意図した使用ということになります。
少し具体的な話をしますと、「これは家庭用の製品です」という文言の中には、業務用には使わないでください、という意味も含まれているのです。読み手側のリテラシーも必要になりますが、実際のところこれが書かれていないマニュアルが多く存在します。
そうすると、ユーザーが家庭用アイロンを業務用に使用して、たとえば発火事故を起こしたとすると、メーカーやマニュアルに責任はないわけですね?
そうです。もしユーザーが意図的に業務用に使用した場合は誤使用で、それはユーザー責任です。だからこういう使い方をしてくださいということを明記する必要があります。しかしながら、それが明記されていないことが多いのです。
こういう使い方はしないでください。などの記載は比較的書きやすいと思うのですが、こういう使い方をしてください、というのはユースケースになりますから、製品によってはやや難しい面もあるのではないですか?
平たく言うと、それがあるから書きたがらないのだけれども、それを明記して使用を限定すべきなんです。何にでも使えるというのは実はすごく曖昧で危険です。
製品種としてはどうでしょう。イメージしやすい製品で何か教えてください。
そうですね、たとえば炊飯器です。業務用と家庭用では使う頻度が違いますよね。ということは耐久性が違います。ですから、家庭用の炊飯器を業務で使わせない方が良いのです。そのことを明記しておかないと、火災が発生したらメーカーは責任を問われます。書いてないのですから。
その耐久性についてはいろいろあります。先ほどのアイロンもそうですし、ドライヤーなんかもそうです。
私も覚えがあります。昔ドライヤーで1時間くらい靴を乾かしていたら火を噴きました。これは誤使用ですね。
一般的に日本人の習慣として限定することを嫌いますが、そうではなく大事なのは使用制限を必ず書くということです。
それは欧米などでも一般的な考え方ですか?
そうです。国際規格でも使用制限は必ず書くことになっています。
なるほど、リスクアセスメントをきちんと実行するというのはそれを考えるうえでも必要不可欠なものだとわかりました。むしろ、それをきちんとしていないことがリスクになるというのも理解できました。
このトピックのテーマである安規情報はもっと整理できる、整理するための手段として、いくつかの大事なキーワードをお聞きできました。整理しますと、
1. リスクアセスメント文書を入手する
2. 安規情報はデータベース化する
3. 製品が開発されるたび、あるいは法律が変わるたびにデータベースをメンテナンスする
ということですね。このテーマについては、また次の機会に続編としてお聞かせください。
ありがとうございました。