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パセイジ通信

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パセイジはこうして在宅勤務を実現した⑤~データ共有の歴史

今回は、パセイジ内でのデータ共有方法についてお話しします。マニュアル制作はいわば「取扱説明書のデータを作る」というものですし、印刷物にするにしても電子マニュアルにするにしても最後にはデータができあがります。そのプロセスで発生するデータを、複数の関係者でどのように共有しているかという話題です。

あ。今回から記事冒頭にリード文(イントロ文)を書くようにしました。この記事の手前のWebページで、記事の冒頭部分が自動的に引用されるのですが、大見出しのすぐ後に中見出し、続いて本文……という構成だとえらくカッコ悪いと今頃気がつきまして……。

ファイルサーバーが無政府状態だった頃

パセイジの業務の大部分は「マニュアルの原稿作成・翻訳 → DTP → 印刷」という流れで進むマニュアル制作です。DTPが定着していても、ちょっと前までは紙の原稿が主流でしたし、Wordなどのアプリで原稿を書いても印刷して後工程に回すことが多く、その校正(確認作業)も紙で出力したものを用いていました。それが次第にpdf形式のデータが確実に主流になり、原稿作成もpdfベース、お客様との原稿や校正紙の受け渡しも紙ではなくメールやFTP(または何らかのファイル交換システム)経由という流れに移り変わっています。

原稿であれ校正紙であれ、データを社内で受け渡すためのファイルサーバーは大昔からパセイジにありました。往年のやたらタッパがデカいタワー型のサーバー機だったのが、その辺の量販店で売っているようなNASになったり、もっとしっかりした高機能なNASになったりしましたが、現在ではサーバーラック内に収納可能なガッツリしたファイルサーバーがせっせと社員さんのデータを蓄え続けています。

しかしながらこのファイルサーバー、古くから使っている割には、データを置く運用ルールが明確には存在しませんでした。「誰かから誰かへ」という個人フォルダーを基本にしたフォルダー構成の運用方針があるだけで、それ以外の社員共有データについてはまさに無法地帯の様相を呈していました。この「個人フォルダー」制は、ルールがシンプルなので誰でもすぐに慣れ親しむことができるのはよいのですが、数名規模の小さな企業ならともかく、今のパセイジは数十人規模ですので、ひとつの制作案件に対し複数のスタッフが入り乱れるようになります。

「個人フォルダー」時代

個人対個人のデータ置き場でしかない個人フォルダー制では「誰がどこに何を置いたか」がすぐに判別がつかないため、「探したいデータが探しにくい」「どこに何があるかすぐにわからない」ことによる実害が生じるようになりました。普段からデータを探しにくいだけでなく、制作の品質不良でお客様から報告書提出を要求されるくらいのクレームが来たときに、誰の作業のいつのデータでその品質不良が発生したかを突き止めるのに、それこそ数時間どころか数日かかるというありさまでした。

個人フォルダー制の末路

クライアント様別にスタッフが固定化しがちだったこともあって、特定のクライアント様別に作業データを置くフォルダーを用意するという運用も自然発生していましたが、クライアント様別(すなわち、その担当の社員さんごと)にローカルルールができてしまい、なじみがない社員さんではすぐにフォルダー構成を呑み込めないということになります。

ルール化を図った話

個人フォルダー制ではイロイロ難がありましたので、制作の成果物のデータ(作業ファイル)を置く場所に一定のルールを設け、各自適宜その作業フォルダーにデータを置いてもらうようにしました。

「プロジェクトフォルダー」と名付けてみた

受注に対して製番(製造番号)を発行するという製番管理はこれもまた昔から導入済みでしたので、製番=プロジェクトと考えて、そのプロジェクトごとにデータを置くというのが大きな方針です。名前がないとナンとも呼びにくいので「プロジェクトフォルダー」と呼ぶことにしました。個人フォルダーではせいぜい「誰から誰に」しかわからず、「◇◇という案件について、お客様から○月×日△曜日にもらった資料」「案件◆◆の初校時の原稿とその内校(お客様に提出する前の社内での確認作業)データ」という観点で目的のデータを探すのが困難です。案件は製番とイコールですので、その製番を基軸にデータの置き場所を定義しようとしたわけです。

製番(プロジェクト)別フォルダーの基本思想

実は製番を名前に含むフォルダー名は、一部の社員さんがローカルで実践していました。ただそれだと、フォルダーの下のデータはその社員さんの担当業務に関連するデータのみが収録されてしまいます。ファイルサーバー上にプロジェクトフォルダーを設けるうえでは、全部門をカバーできるようなフォルダー構成が必要でした。

まずは共有データの大分類から

過去に何度かファイルサーバーを入れ換えたときに、少しずつ上位フォルダーを整理していました。社員間のデータ受け渡しのための個人フォルダーの他に、交通費清算書などのように社員さん全員が共通で利用する「公共の」データ、部署・部門ごとに自由に使ってもらう部門別フォルダーがあり、それらと同じ最上位階層に、案件(受注した制作物を単位とする仕事の呼称)ごとの作業データを置くフォルダーがすでにありましたので、ココに置くデータに対しプロジェクトフォルダーの運用を始めようとしたわけです。一意の英数字に過ぎない製番を元にしたフォルダーをそのままフラットに並べると多すぎるし別の意味でわかりづらくなりますので、顧客名を示すフォルダーをサブフォルダーに配置し、プロジェクトフォルダーはその下に置くようにしています。

プロジェクトフォルダーの置き場所

フォルダー構成

そのプロジェクトフォルダーですが、ひとつの製番フォルダーに対し、制作の流れに沿って10個のサブフォルダーを収録し、データの位置づけに応じてそれぞれのサブフォルダーの中に置いてもらう、というものです。実際のサブフォルダーの名前は英単語ベースにしていますが(ワタシ古いニンゲンなのでファイル名やフォルダー名に漢字仮名カナを用いるのはどうにも抵抗があります)、ここでは解説も兼ねてバリバリの日本語のフォルダー名で例示します。

プロジェクトフォルダーの構成

サブフォルダーについてもう少し詳しく説明すると、こうです。

サブフォルダーのもう少し詳しい説明

なんとなくですが、受注、起票、原稿作成、翻訳、内校、提出、納品、請求と、制作工程が進む順番になったサブフォルダーです。データを探すときは「初校作成時の英語版の原稿はどこ?」とか「お客様からのチェック結果を知りたいんだけど」「別の営業さんが○○案件で作った請求書を参考にしたい」という観点ですので、この分類で探しやすくなります……いや、なるハズ……。

効果と顛末

運用開始後ほどなくして効果のほどを探ってみたのですが、「担当案件でなくてもどこにどのデータがあるかわかるので、途中から作業に参加しやすく、つまり複数名で同じ案件を担当しやすくなった」「従来の個人フォルダー運用時に比べ、案件ごとの過去の経緯を探る時間が飛躍的に短くなった」ようです。よくもまァ今の今までこういうモノなしで仕事してきたよな、ウチのカイシャ……。

特定のクライアント様の業務でローカルルールによるフォルダー構成が定着していたりすると、上記のフォルダー構成にすんなりと移行できなかったりしますが、何もルールが存在しなかったクライアント様の業務では一気にフォルダーの導入が進みました(図らずしも、売上や作業規模の面でいちばん大きなお客様の仕事に該当します)。導入から3年経過した今でも普及率・定着率は100%に至っていませんが、ナンだカンだで大多数の案件がプロジェクトフォルダー化を果たしています。

置き場所のルール化は、在宅勤務という観点では「それまでの間にソコソコ進んでいた紙の原稿の電子化」が、ソコソコどころかガッチリ定着したといいところが大きな効果だったと感じています。おかげで昨今のコロナショックで「さァみんなで在宅勤務しなきゃと」なったときに、制作部門については業務が進まないという心配はせずに済みました。このフォルダーの運用がなくても在宅勤務自体はできたかもしれませんが、それは単におうちに引っ込んだだけに過ぎず、制作効率は悲惨なくらい悪くなっていたかもしれません。

これってフリーアドレスできなくね?

置き場所のルール化によって、ローカルつまり自分のPCにデータを溜め込まなくて済むようになり、PCが身軽になったのも効果のひとつです。それまではみなさんもれなくデータを自分のPCに保管していましたので、社内全体を見渡した場合に、まったく同じデータが複数名のPCに複製保管されていたことになります。置き場所ルール化によって、たとえば最終データもファイルサーバーに置いてすぐに参照できるようになったので、自分で抱える必要がなくなりました。それ以外のデータのサイズは、制作データ(DTPのソースデータもあるのでかなり巨大サイズ)に比べればずっと小さいので、比較的データ領域が小さくなりがちなノートPCでも充分です。取り扱うデータのサイズが大きくなりがちな制作の社員さんは難しくても、営業社員さんはノートPCだけで生活できそうです。

ここまでくると、世間で喧伝されているフリーアドレスも夢ではなくなります。営業社員さんには最初にデスクトップPCを用意し、必要となったときにノートPCを用意していましたが、今後はノートPCだけにしてもいいかなと考えるようになりました。

そしてデータは増えてゆく

当然ですがファイルサーバーの容量は遅かれ早かれ枯渇します。なにせ運用方針がないのですから、誰も捨てないのは今も昔も変わりません。現在のファイルサーバーの導入後ちょうど4年を迎えた頃には、容量5TBのうち空き容量が100GBを下回るようになりました(空き容量2%)。旧来の個人フォルダーは一時的なデータ置き場のはずですので、一定期間経過後に自動削除するようにしましたが、それでも空きが増えません。年末年始に、容量を食っている一部の部門に対し整理統合削除を仕掛けてようやく800GBほど空きました。

導入後3年経過したプロジェクトフォルダーも、消さずに残しています。たとえば旧版をベースにした改版などでは、古いデータを参照するケースがあるからです。1、2年前までは残しておいてもよいと当初から考えていましたが、運用開始後3年も経過しましたし、そろそろ初期の頃のデータはどこかに移すなり圧縮して容量減らすなり考えないといけません……。

とにかく在宅勤務には有効だった……よね?

某自動車メーカーが世界に誇る「かんばん」システムも、導入を定着させるのに時間と労力かかったと聞いています。それに比べればたかだか置き場所を決めただけの話ですが、こういうルール化みたいなのを全社的に普及させるのは難しいようです。フォルダー運用の定着も難しいですし、増えてゆくデータをどう棚卸しするかも悩みどころです。

そもそもファイルサーバー上の置き場所を決めるというアプローチ自体が先史的というか古典的なのですよね。今だとさしずめSharePointとかGitHubでのソースデータ共有を図るのが最新のトレンドになるでしょうか。そういう手段も考えなかったわけではありませんが、先進的すぎて誰もついてこれない(ワタシも含め)に決まっていますので速攻で頭の中から消し去りました。

しょせんは置き場所を決めたに過ぎません。日付を示すフォルダーに各工程のデータを置くことで「途中経過が誰でもわかる」とは言われますが、それは副産物みたいなもの。本当の意味で「誰が何をいつ」仕上げたかをオープンにするには、RedmineとかTrello、Asanaのようなタスク管理ツールがないと実現しないと感じています。管理手法としては古典的でアナログチックなプロジェクトフォルダー制ですが、少なくとも在宅勤務には有効だったかなぁ……というお話でした。

ここまで読んでいただきありがとうございました。今回はここまでにしとうございます。